蒲田の隣である大森在住のBさんの個室を名残惜しい気持ちで退出した僕は、なんだか気持ちが高揚していた。単にBさんが隣町の大森在住で、親近感を持っただけだからかもしれない。しかし僕は、自身が口下手な割に、15分間一度もBさんと気まずくなることなく、会話がスムーズにできたなという満足感があった。ワキガのAさんとも、なんやかんやで滞りなく話ができたと思う。だから僕は、すっかり油断していたのだ。
スタッフの方の合図で、僕は次のお相手であるCさんの個室に入室した。
「失礼します。こんにちは、ホピ沢と申します。本日はよろしくお願いします」
「あ……ああ……どうも。Cです……」
「Cさんはラーメンがお好きなんですね!ラーメンはよく食べに行かれるんですか?」
「よくは……べつに……」
「何系のラーメンがお好きなんですか?」
「……何系って言われても……」
「僕もラーメンが好きなんですけど、よく食べに行くのは家系ラーメンです。家系ラーメンはご存知ですか?」
「……」←愛想笑いを浮かべるだけのCさん。
「……」←返答を待つ僕。
「……」←愛想笑いを浮かべるだけのCさん。
あれ……?今僕、「家系ラーメンはご存知ですか?」って質問したよね……?
返事を待ってていいんだよね……?
「……」←愛想笑いを浮かべるだけのCさん。
「……」←返答を待つ僕。
「……」←愛想笑いを浮かべるだけのCさん。
あれ……?これって何の時間……?
Cさんは口元に謎の愛想笑いを浮かべるだけで、一向に声を発してくれないのだ。加えて自ら会話を振ろうとする気配も感じられない。どうしてなのだろう。僕の質問は、質問として捉えてもらえなかったのだろうか。さすがにさっきまで高揚していた僕の気持ちも、どんどん冷えていく。
「Cさんのお仕事は……歯科衛生士さんなんですね。都内で勤務されてるんですか?」
「……」←愛想笑いを浮かべるだけのCさん。
「お仕事大変ですか?」
「そうでも……?」
「……」←次の言葉を待つ僕。
「……」←それ以上は何も言わず愛想笑いを浮かべるだけのCさん。
……本当にこれって何の時間なのだろう。