2025年6月16日月曜日

40代男が婚活パーティーに行ってみた13

「僕の好きなやきとん屋さんが大森にあるんですけど……」
「……大森?私、大森に住んでるんですよ!
 

なんとBさんは、僕が住んでいる蒲田の隣、大森在住だそうだ。
 
「えー大森!ホピ沢さんのお好きなお店が大森にあるんですか?わー嬉しいです。大森って京浜東北線の沿線で結構便利なんですけど、マイナーな地域なのでまず話題にならないです。は?大森?どこ?みたいな感じなので。だから地元民としては、大森を利用してもらえて嬉しいです。ホピ沢さんはよく大森に来られるんですか?」 

大森駅の話が出た途端、それまでどこか淡々と話していたBさんの口調が、がらりと変わった。高揚しているというか声に抑揚がついて、明るく弾むようなトーンになった。余程、大森の話が嬉しいのかもしれない。
 
大森。何を隠そう大森は、僕が住んでいる蒲田の隣の駅。蒲田生まれ蒲田育ち蒲田在住の僕にとって、大森は地元と言っても差し支えないだろう。大森の話なら、得意中の得意だ。ちなみに余談だが、大田区の由来は、大森の「大」と蒲田の「田」を組み合わせでできたものだ。
 
「……実は僕、蒲田に住んでるんです」 
「え!蒲田?うそ、蒲田?えー!お隣じゃないですか!」 
「ええ、そうなんですよ。だから僕も今びっくりしています」
「私もびっくりです!すごい偶然ですね!いつから蒲田に?」
「それが生まれた時からです。蒲田生まれ蒲田育ち蒲田在住の蒲田民です」
「わー!生粋の蒲田民じゃないですか!そういう私も大森生まれ大森育ち大森在住の大森民です!」
 
わああっと二人で歓声を上げて、謎に喜んでしまった。どちらともなく手を差し出して固い握手を交わしたのは、無意識に仲間意識が芽生えたからだろうか。それまでBさんについては"人よりちょっとだけ太っている……いやデブ"くらいにしか思っていなかったが、一気にぐっと親近感を感じた。ぶるんぶるんに揺れる二の腕も、ぴちぴちのワンピースが破れそうなくらいに出たお腹も、丸々とした二重顎も、ぎゅうっと握りつぶされるくらい強い力で握手をしてきたムチムチの手も、全て頼もしく見える。よくわからないが、僕はBさんが大森に住んでいるというだけで、何故か信頼を寄せつつあった。
 
「私も週二くらいで蒲田に行くんですけど……」
 
Bさんが口を開いたその瞬間、終了の合図が鳴り、次の方の個室に移動する時間になってしまった。 

「あ……」
「あ……」
「えっと、ありがとうございました」
「あ、はい、えっと、またあとで!」
 
またあとで……またあとで?あとでってなんだ?
 
不思議な気持ちで僕は立ち上がり、お礼を述べながらBさんの個室を退出した。

ところで意外にも、肥満でありながらBさんの指は細くて長くて、とても綺麗だった。

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