あくまで僕の独断と偏見だが、海外に在住している日本人女性のような雰囲気を思わせる38歳歯科衛生士のCさんは、良くも悪くも他人や周囲に流されることなく、自分の意思を貫き通すブレない性格なのかなと感じた。その証拠に、僕の質問にはほとんど答えてくれず、愛想笑いを浮かべるのみ。おそらく僕と話したくないと決めたからには、15分間それを突き通すのだろう。その考えが決して悪いと言いたいわけではない。むしろ、誰にも影響されることなく己の信念を曲げないことはすごいし、見習いたいところ……だが。それを今しなくても……いいじゃないですか……。
「歯科衛生士さんのお仕事は大変そうですね……お休みは土日ですか?」
「……」 ←愛想笑いを浮かべで軽く頷くCさん。
「……休日は何をされているんですか?」
「うーん……?」
「……」←返答を待つ僕。
「……」←愛想笑いを浮かべるだけのCさん。
「……」 ←返答を待つ僕。
この人とは話したくない関わりたくない、という態度を表現する形は色々あるが、無視されるのが一番つらい。当初は、Cさんに愛想笑いされているとか無視されているとか、そういうことは単に僕の勘違いで気にしすぎだと思っていた。だから例え返答がなくても、めげずにCさんに会話を振ってきた。だって今ここは、婚活パーティーで僕は婚活をしているのだから。相手の人となりを知る絶好のチャンス、会話をしなくてどうする。
しかし……僕が焦れば焦るほど、Cさんは口を閉ざす。手持ち無沙汰なのか、面倒臭そうに長い髪をクルクルといじったり、掻き上げる。こんなあからさまな態度……普通ありえるのか?
信じられないことだが、こんな至近距離で面と向かっているのに、Cさんはただただ謎の愛想笑いを浮かべる、もしくは「あ」とか「え」とか一文字発するだけ。僕がいくら問いかけても、ほぼ答えてくれないのだ。もちろん、Cさんに何か失礼なことを聞いたり言ったり、不快な話題などは一切していない。Cさんのプロフィールに書かれている仕事や趣味について、それとなく尋ねているだけだ。
当たり障りのない質問も許されないのなら、一体どうすればいいのだろう。
おい、C!僕のことが生理的に無理なのかもしれないが、少なくともこの15分間は大人の対応してくれよ!お前何しに婚活パーティー来たんだ?つーかお前大人だろ!嫌なものは嫌ですってその態度!そんなんで仕事務まるのかよ!せめて適当な相槌ぐらい打てや!その何度も何度も長い髪を掻き上げる仕草、やめれや!それ見るのちょっと嫌なんですけど!
腹立たしさと虚しさで、僕は心の中で悪態をつきまくった。Cさんは金輪際自分の人生に関わりがない人とはいえ、実際目の前でこの仕打ちを受けると結構なダメージだ。その後、わずかな望みをかけてCさんの様子を伺うも、Cさんは僕に話しかけることなくつまらそうに髪をいじっていた。
僕は、考えることをやめた。そして決めた。あとはもう、抗うことなく沈黙に身を委ねることにしたのだ。
「退屈にさせてしまって申し訳ありません。失礼します」
長い長い15分間が終了した瞬間、僕はCさんにそう言い放って席を立った。
せめてもの抵抗だった。
