「そうですか。不躾な質問になりますが、何故その時結婚に踏み切れなかったのでしょうか。何かご事情があったのでしょうか。答えたくなければ答えなくて結構です」
「え……結婚を申し込もうかと考えていた矢先に振られてしまったので……」
「そうですか。元恋人の方と、タイミングが合わなかったということですね」
「そうなりますね……」
「今になって……ですか……?」
今になってって言われても……。唐突に元彼女と結婚に至らなかった理由と、結婚したい理由を聞かれて、僕は戸惑った。決して根掘り葉掘り聞かれて不快だったからではないが、ちょっと不思議に思う。"結婚したいのですが、自力でどうにもできないので結婚相談所を頼りました"と、縋る思いでここに来ているのに、わざわざ「何故今になって結婚したいのか」と、そんな再確認する必要あるのだろうか。
というか今になってって……仮にも結婚相談所のカウンセラーでありながら、内田(仮名)さんのその言葉のチョイスに驚く。まるで「不細工チビの40歳が、今頃結婚しようと思うなんざ、遅過ぎんだよ!手遅れ!」と言われている気がしてならない。被害妄想かもしれないが、、内田(仮名)さんから圧倒的に門前払いを食らっている気持ちになり、急激に僕の心は冷えていった。
「……」
「……」
「今になって婚活というのは……見込みがないという意味でしょうか……」
「いえ、決してそういう意味では……!」
「今になって結婚を望むのは……身の程知らずでしょうか。現実を知らずに結婚相談所に入会すると、取り返しのつかないことになると思うので、教えてくださると……」
「ご安心ください!大丈夫です!ホピ沢さんと同世代はもちろん、40歳以上の男性会員様はたくさんいらっしゃいますから」
「……」
「……で、では!弊社のシステムをご説明させていただきますね」
おい、内田(仮名)!なにが安心だよ!全然安心できねーよ!つーか40歳以上の男性会員様はたくさんいるんだろ?独り身に苦悩している迷える子羊に向かって、今になってって言葉、NGすぎんだろ!こっちのやる気を根こそぎ削ぎ落とすような言葉を使うなや!
言葉一つにダメージ受けすぎだろと思われるかもしれないが、思いの外、内田(仮名)さんの一言は、僕の心に影を落とした。