結婚相談所A社の無料カウンセリングから数日後。平日の仕事終わりに、無料カウンセリングを申し込んでいたD社に伺った。このD社もA社と同様、電車や雑誌の広告等で目にしたことがある大手企業だ。結婚相談所に無縁の方も、おそらく耳にしたことがあるだろう。蒲田の汚い雑居ビルとは雲泥の差、洗練されたオフィスビルに入った僕は、エレベーターでD社がある階に降りたった。
受付で名乗って用件を伝えた後、奥に通された。こちらもA社と同じように、簡易的なパーテションで区切られた半個室だった。同じ時間帯に何名もの方が利用しているから仕方ないとはいえ、パーテーション越しにうっすら聞こえてくる切実な悩み相談は、やはり僕の胸を苦しくさせた。
「お待たせして申し訳ございません。本日担当させていただきます、内田(仮名)です」
無料カウンセリングの担当者さんは、なんと男性だった。男性だからどうこうというわけではないが、なんとなく僕の中で結婚相談所のカウンセラーは女性の印象が強い。綺麗でサバサバしていて強気な女性カウンセラーが、容赦なくダメ出しをしてぐいぐい引っ張っていくイメージだったので、男性の担当者さんの登場に少々驚いた。
「早速ですが、弊社にお越しいただいたきっかけをお伺いしてもよろしいですか?」
内田(仮名)さんは僕と同じくらいの年齢……40代前半だろうか。すらっと長身の細身でスタイルが良く、笑顔が素敵な方だった。おまけに目鼻立ちがはっきりした、イケメン。物腰も柔らかく、優しそうだった。
「そうでしたか。電車で弊社のポスターをご覧になって、ご興味を持ってくださったんですね。ありがとうございます」
僕はこの時、一刻も早く逃げ出したい衝動に駆られていた。正直、打ち拉がれていた。決して内田(仮名)さんに問題があるわけではない。ただ同世代と思われる男前に、不細工でチビでしょぼくて冴えない男が、"結婚できなくて困っています"と相談するのは、なかなか悲しく、惨めだなと感じたのだ。これが同じ男性でも、同世代ではなく僕よりも年上のカウンセラーだったら、また違う気持ちだったかもしれない。
「失礼ですが、女性と最後に交際されていたのはいつでしょうか」
この質問を受けた時は、恥ずかしさと悲惨さと侘しさで爆死しそうだった。というか、虚無。内田(仮名)さんはあくまでビジネスモードだとわかっていても、これまで女性に不自由したことがなさそうな男性の前で、数少ない恋愛事情を公にするのは、死に近い。僕は顔から火を吹き出しながら、「確か……数年前です」と口籠もりながら言った。
「そうですか。不躾な質問になりますが、何故その時結婚に踏み切れなかったのでしょうか。何かご事情があったのでしょうか。答えたくなければ答えなくて結構です」
