ラーメンの麺を一本一本、ゆっくりと啜るあすぴょんさん。麺が冷め切っても伸び切ってもお構いなしに、たっぷりと時間をかけて食べ終えた。多分、約30分程かかったと思う。その間、あすぴょんさんが完食するまで辛抱強く待っていた僕は、なんとか話題を捻り出して会話を繋いだ。しかしあすぴょんさんの細かな言動が気になってしまい、心が無性にザワザワしてしまった。例えば。ちゅるちゅという麺を啜る音もそうだが、ハムスターのように頬を膨らませてもぐもぐするクセとか、長い髪を結ばずに垂らしながら食べる姿とか、スープに毛先が入りそう……というか入っているのに気にならない様子とか。
……なんかもう、心が折れてしまった。
「……そろそろ出ましょうか。お店も混んできましたし」
あすぴょんさんがラーメンを食べ終え、アイスカフェラテを完全に飲み干したところで、僕は帰宅を仄めかした。ちょうど時刻はランチタイムに近づいており、当初はまばらだった店内もいつの間にか大賑わい。このタイミングで席を立つのが最適だと思ったのだ。
「あ、そうですね。混んできましたし、出ましょうか。ちなみにこの後はどうされますか?」
「えっと……すみません。この後は予定があるので……今日はここで失礼します」
本当は予定なんで何一つなかったが、考えるよりも先にそう言っていた。無意識の防衛本能。僕は、心ここに在らずだったと思う。何度も何度も頭の中で先ほどの麺を一本一本啜るあすぴょんさんの姿が巻き戻しされてしまい、その度に胸を掻きむしりたくなる衝動が込み上げてくる。今日はこれ以上、あすぴょんさんと一緒にはいれないと感じた。
「そうですか。では駅まで行きましょうか。私はせっかくなので、アニメグッズを見に行こうと思います」
「いいですね。同志たちに会いにいく感じですね」
「ええ、あと実はもう一つ。この後、久しぶりに執事カフェに行く予定なんです」
「そうなんですね。ぜひ楽しんでくださいね」
そんな当たり障りのない会話をして、僕はあすぴょんさんと駅の改札口で別れた。
もうきっと会うことはないだろう。
そう思いながら。