「早速ですが、弊社にお越しいただいたきっかけをお伺いしてもよろしいですか?」
"結婚したいと思いまずはマッチングアプリで出会いを探していたが、なかなかご縁に恵まれず八方塞がりの状態に陥っていた。そんな時とある結婚相談所の広告を目にし、その流れで結婚相談所について検索をしている時に、こちらの結婚相談所のホームページに辿り着き……"
……的なことを言ったと思う。
「なるほど。要はホピ沢さんは、結婚相談所を最後の手段、最後の砦というお考えで、ご入会をご検討されているいうことでしょうか。そういう方、結構多いんです」
「えっと……最後の手段とか最後の砦とは思っておりませんが、やはり結婚相談所は敷居やハードルが高いイメージがありますので……。まずは身近な婚活方法から始めて、ステップアップの先が結婚相談所と考えておりました」
「ステップアップですか……なるほど」
山田(仮名)さんは"なるほど"が口癖なのか、会話の冒頭や締めに必ず「なるほど……」を言う。実は僕は、"なるほど"という言葉が少し苦手だ。僕だけかもしれないが、ちょっと上から言われている気分になってしまう。まあ本当に納得しているなら"なるほど"でも構わないが、多分山田(仮名)さんの"なるほど"は、会話を終わらせるための一言。バサッと打ち切られる感覚が、結構キツい。サバサバした印象を与える山田(仮名)さんの"なるほど"は、僕のメンタルをチクチクと刺してきた。
「まずは最後手段とか最後の砦とか、ステップアップとか、そういう考えは一切捨ててください。結婚相談所はそういうところではありません。何をやっても結婚できなかった人が最後に頼る場ではありません。大間違いです。結婚相談所は、最初の手段です。最初に結婚相談所を選ばずにマッチングアプリを利用した時点で、ホピ沢さんはもう婚活に躓いているんです。躓いたと自覚してください」
本人はそのつもりはないだろうが、山田(仮名)さんの口調はかなり厳しかった。僕はまるで叱責されているような気持ちになり、萎縮してしまった。「はい……」と小さく頷くのが精一杯。無料カウンセリング開始早々、まさか初っ端で怖くて心が凍りそうになるとは思わなかった。
「そしてスタートが遅かったことも自覚してください。まずは自分自身が置かれている状況をしっかり理解してください」
「はい……」
「なるほど」
ここで、"なるほど"という理由はなんなんだ。僕は少しイラっとした。そんなことは言われなくても、誰よりも自分が一番わかっている。 自分自身が負け組だと自覚しているからこそ、結婚相談所を訪ねたのだ。そもそも勝ち組の人は、結婚相談所に絶対来ない。
なんか山田(仮名)さんの当たりが強いなと感じた。
……なんで?
山田(仮名)さんには、僕の態度がふざけているようにでも見えたのだろうか。それとも外見が救いようのないアウト気味だと判断されたから、塩対応されているのだろうか。確かに悲しいことに門前払いの不細工顔ではあるが、それを少しでもカバーするために身だしなみには気を遣っている……はず。
「なるほど。では弊社のシステムについてご説明させていただきますね」
山田(仮名)さんにビシバシ口撃されていた僕の表情は、多分死んでいたと思う。