"ご迷惑をおかけしてすみません。どうか私のことは気にせず、先に劇場に行っててください。なんとか頑張って向かっています"
"なんとか頑張って向かっています"、じゃねーよ!僕はあすぴょんさんが今どこにいるのか把握するために、あすぴょんさんに居場所を聞き出した。
"パン屋さんが見えます"
"お店の名前はなんですか"
"たぶん、XXだと思います"
"パン屋さんが見えます"、じゃねーよ!きちんと店名で教えてくれよ!
僕はイライラしながら、パン屋の名前を検索する。そして愕然とした。なんとあすぴょんさんは、待ち合わせ場所とは反対の出口にいることが判明したのだ。
なんでなんだ?どうして逆の出口にいるんだ?前もって待ち合わせ場所も時間も確認したし、前日にも尋ねたし、あすぴょんさんも「何度か行ったことがあるので大丈夫です」と言っていたはずだ。どういうことなのか全然わからない。方向音痴の方は、これが日常茶飯事なのか?
"ホピ沢さん、本当にすみません。先に行って観ててください"
馬鹿野郎!だからどうやって先に観ろというんだよ!
僕の頭の中は沸騰寸前だった。あすぴょんさんは先に劇場に行けと言っているが、先に劇場に行ってどうしろというのだろう。チケットを発券するには、チケットを購入したあすぴょんさんのクレジットカードもしくは電話番号と、購入番号が必要なのだ。僕はそれを知らないし、個人情報を聞くのは憚られる。それとも、ただ劇場のロビーに突っ立っていろという意味なのか?
とりあえず僕は、目的地までの道順をなるべくわかりやすく書いて返信をした。あすぴょんさんは何度も、"すみません"や"先に行ってください"とメッセージを送ってきたが、そんなことを打っている暇があるならマジでダッシュしてこいやと思った。
そうして開演時間の7分前。あすぴょんさんはとくに急ぎもせずのんびりとした足取りで、待ち合わせ場所にやってきた。「遅れてごめんなさい」と口先では言っているが、ライブギリギリだというのに危機感を感じていなさそうだ。僕はそんなあすぴょんさんに、がっかりした。
おい、あすぴょん!お前マジでなんでそんなに余裕こいてんだ?開演まであと7分あるから大丈夫って思ってんのか?ここから駅ビル最上階の劇場行ってチケット発券するまで7分でできると思ってんのか?まさか観劇の前にトイレ行く時間あるとか思ってないよな?それとも僕が張り切り過ぎてんのか?大袈裟すぎるのか?
「行きましょう、あと7分しかないですよ」
ぽやぽやしているあすぴょんさんを促して、僕は早歩きで劇場に向かった。エレベーターとエスカレーターのどちらが早いか迷ったが、一か八かで選択したエレベーターがタイミング良く来てくれたおかげで、スムーズに劇場に到着。ただ問題はそこからだった。
「チケット発券……?購入番号……?えっとなんだっけ……ホピ沢さん知ってます?」
知らねーよ!