2024年10月25日金曜日

40代男がマッチングアプリをやってみた 63

そうだ、タクシーだ。 
 
サリーさんをタクシーに乗せよう。
 

「サリーさん、電車に乗れますか?もし難しそうなら、タクシーで帰りましょう」
 
うんともすんとも言わずにうずくまっているサリーさんは、僕の問いに「はあい」と言った。その「はあい」は、電車とタクシーのどちらに「はあい」なのか。こちらが真剣に接しても、酔っ払っているサリーさんからはまともな反応が返ってこない。そういうわけで、僕の独断でサリーさんをタクシーに乗せることにした。
 
石のように動かないサリーさんになんとか立ってもらい、彼女を支えながらタクシーの通りが多い場所を目指す。サリーさんは細身とはいえ、泥酔して歩く気がない女性を支えて歩くというのは、かなり大変だった。加えて誤解を招かないために、極力サリーさんに触れないように神経を遣っている。さらに蒸し暑い。厳しい苦行だった。
 
「すみません、赤羽駅までお願いします」
 
なんとか捕まえたタクシーの座席にサリーさんを座らせた僕は、運転手さんに行き先を告げて一万円を渡した。新大久保から赤羽の距離感がいまいちわからなかったが、一万円あればなんとかなるだろう。というかなんとかしてくれ、と半ばヤケクソだった。 
 
そしてタクシーのドアが閉まる直前、今にも眠りに落ちそうなサリーさんに、「サリーさん、タクシーに乗りましたよ。赤羽駅まで行きますからね。気をつけて帰ってくださいね」 と言った。「はあい」と聞こえたような気がしたが、今思えばそれはタクシー運転手の声だったかもしれない。
 
サリーさんを乗せたタクシーが遠ざかっていくのを見届けた僕は、新大久保駅に向かった。どうやって帰ったのか覚えていないくらい疲れていたが、蒲田の行きつけの町中華でチャーハンを掻きこむ気力と体力と食欲は、しっかり残っていた。
 
馴染みの食事で心が満たされると、ふと心配事が脳裏をよぎった。
 
サリーさんは、きちんと家に帰れたのだろうか。

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