誰もランチに誘えず所在無げに立ち尽くしていると、ふと声をかけられた。
「ホピ沢さん、先ほどはありがとうございました」
なんとそこには、 先ほどバスで嘔吐してしまった女性が立っていたのだ。
「お詫びが遅くなってしまい、ごめんなさい。せっかくのバスツアー中に、ご迷惑をおかけして……」
「いえ、大丈夫ですよ。お気になさらず。御気分はどうですか?大丈夫ですか?」
「はい、おかげさまで良くなりました。ありがとうございます」
嘔吐に気を取られていたこともあってうっかりしていたが、僕はこの時初めてまともに女性の顔を見た。彼女の可愛らしい顔立ちに、目を見開いてしまったかもしれない。とても可愛かった。予期せぬ可愛さに僕は動揺し、挙動不審になっていただろう。
彼女は、ナガタさんという。カットモデルのようにばっちりセットされたショートカットの黒髪、てろてろした生地の黒のブラウスに、ロングのデニムスカート。可愛らしい顔立ちはさることながら、長身細身の体型も相まって、ナガタさんからは絵になるようなかっこよさが溢れていた。
おそらくナガタさんは、僕とは違う世界で生きているのだろう。芸能人以外にも容姿が抜群な人って存在するんだな……というのが、感想だった。これまでの人生、綺麗な女性を遠くから眺める機会は多々あったが、まさか話しかけられるとは。しかし同時に、これといって取り柄もない自分がナガタさんの隣にいることに、とてつもなく惨めさを感じた。
「具合が良くなって、良かったです。無理しないでくださいね。では……」
「あの、ホピ沢さん。もしよければお昼一緒にどうですか?」
「え?」
立ち去ろうと思っていた僕は、耳を疑った。
「お昼一人なんです。もしよければ一緒に食べませんか?」
「ぼ……僕でよければぜひ」
なにこれなにこれなにこれ!!!!誘われちゃったんだけど!!!!
ひょっとしてひょっとして……ひょっとしてってこと????
僕は舞い上がった。婚活バスツアーに参加せずとも、美人のナガタさんは引くて数多だろうに。そんな彼女から、ランチに誘われている。その事実が僕を浮かれさせた。
「お腹すきましたね。ナガタさんは決められましたか?」
「いいえまだ。先ほどメニュー見たんですが……」
「あの〜すみません。もしお邪魔でなければ、私も参加してもいいですか?」
何奴……!?
えっ……と思い振り返ると、そこにはムラマツさんが立っていた。
