女性添乗員さんがマイクONの状態で実況中継したのが原因……ではないとはいえ、事を荒立てたのは事実。嘔吐してしまった女性の意志とは裏腹に、自己紹介タイムは中断となった。
良くも悪くも賑やかな女性添乗員さんは、嘔吐してしまった女性の身を大袈裟に案じた。 その所為で車内中にアクシデントが知られることとなり、バスの中は騒然。隠しきれない匂いも充満し、心無い言葉を呟きながら窓を開ける人もいた。
嘔吐してしまった女性は責任感や羞恥心を感じているのか、申し訳なさそうに俯いてしまった。
色々なタイミングで嘔吐した女性の隣に座ることになってしまった僕も、相当気まずかった。いやこの際はっきりと言わせていただく。正直言って、本当に辛かった。具合が悪くて嘔吐してしまったことは仕方ない。自分だって、いつどこで嘔吐するかわからないのだから、女性を責める気持ちにはならない。とはいえ、ついてないな……というのが、本音ではある。なにせ隣に座ったご縁で、女性を介抱しなければならないのだから。
介抱だなんて大袈裟、別にそんなことする必要はない……というお声もあるだろう。しかし普通は、その場に居合わせたら行動せざるを得ないと思う。それに僕には、一切関与せずに無視を決め込む度胸もない。僕は時折女性に声をかけながら、様子を見守った。
……女性を案じる気持ちもあったが、90%は、ゲロられて自分にかかったらどうしようという、身勝手だが自分の心配だった。
結局自己紹介タイムは目的地に到着するまで中断となり、僕はバスが停止するまで女性の隣に座っている羽目になった。
「大丈夫ですか?」
「はい、もう大丈夫です。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「では失礼しますね。もし何かまた具合が悪くなったら言ってください」
ホピ沢いい人ぶるんじゃねーよ!……と思われるかもしれない。だが、声をかけずに降りれるだろうか?僕だっていい人ぶるつもりなんて微塵もなかったが、他になんと言って席を離れるべきかわからなかった。それに無言で席を離れる勇気もなかったのだ。
とりあえず僕はそう告げて、一目散にバスを下車した。とにかく外の空気を吸いたかった。
「ではここで昼食タイムです!」
