「もしかして、なんか小さくてかわいいやつがお好きなんですか?」
姪にプレゼントするためにキーホルダーを手に取った瞬間、全く見覚えのない女性が背後に立っていた。
「私も好きなんですよ。グッズとか集めてて、ちょうど買おうかなと思っていたところです」
……誰だろう、この女性。
突然見知らぬ女性に話しかけられて、僕は困惑した。困惑というか、恐怖を感じたという方が正しいかもしれない。 悪気があるわけではないだろうが、気配なく背後から近づき話しかけられるシチュエーションは、心臓に悪過ぎる。僕の警戒心は全開で、不信感でいっぱいだった。
「ちなみにどのキャラクターがお好きなんですか?」
今僕に話しかけてくるということは、おそらく婚活バスツアーの参加者なのだろう。しかし、全く見覚えがなかった。
「あの……失礼ですが、婚活バスツアーに参加されていらっしゃいますか?」
知らないまま話すのも気が引けるので、僕は思い切って尋ねてみた。その瞬間女性ははっとしたように顔を上げて、まじまじと僕を見る。その目力がなんだか強くて、なんとなく目を合わせるのが気まずかった。
「あ、すみません。そうです。バス乗り場でお見かけした時から、話してみたいなあって思ってたんですよ」
「え?えっと……」
「まだバスの中でトークもしてないのに、突然話しかけたらびっくりしちゃいますよね。すみません」
「いえ……」
なんでだろう、バス乗り場で僕はおかしな挙動でもしていただろうか。例えば僕が第一印象で決まるような男前であれば、"バス乗り場でお見かけした時から、話してみたいなあって思ってたんですよ"というセリフに、動揺することなく納得できたかもしれない。だが僕は、もちろん第一印象で女性の心を撃ち抜くような容姿ではない。
どうして僕と話してみたかったのだろう。うまく返答できなくず思わず目を逸らして……僕はぎょっとした。女性の口周辺に、うっすら生えている口髭が飛び込んできたのだ。
「ムラマツと言います。よろしくお願いします」
ムラマツと名乗った女性は、お世辞にも目を引く容姿とは言えず、地味。お前も目を引く容姿ではないし地味だろ、とお叱りを受けることは承知。僕自身も自分のことを棚に上げて何言ってるんだと思うが、ムラマツさんは本当に地味だった。