完全に拒否されたと思っていたDさんから連絡がきたのは、僕が送ったラインからちょうど1ヶ月弱経ったある日のことだった。
"こんにちは!お久しぶりです。どうしてるかなと思って連絡してみました。お元気ですか?"
"スタンプ"
"私のぬいちゃん元気にしてますか?すぐに迎えに行こうと思ったんですけど、色々な経験をさせたくて、ホピ沢さんにお預かりしてもらってました!"
"そろそろお返ししてもらいたいなと思うんですけど、いいですか?"
……は?
画面の上に出たラインの通知を見た瞬間、そう声が出てしまった。通知だけでは全文は読めなかっただが、なんとなく察して閉口する。ラインを開くのが億劫になった。しかし恐る恐る読むと……上記のDさんの文章が僕の視界に飛び込んできたのだ。
おい、D!お前……正気か?
本当にこいつ、何を言っているんだろう。思わずスマホを握りつぶしてしまうくらい、僕はイラッとした。よくもまあ1ヶ月弱もぬいぐるみを放置していたくせに、平然と連絡できたな!まずは謝罪とお礼を述べるのが先だろ!なにが"そろそろお返ししてもらいたいなと思うんですけど、いいですか"だよ!これじゃあまるで、僕が貸して欲しいとお願いしたみたいじゃないか!
色々言いたいことは山ほどあったが 一番腹が立ったのは、この一文。
"すぐに迎えに行こうと思ったんですけど、色々な経験をさせたくて、ホピ沢さんにお預かりしてもらってました"
……じゃねーだろ!なにが色々な経験だよ!お前ぜってーこれぬいぐるみのこと忘れてただろ! 本当はぬいぐるみなんて大事な存在じゃねーんだろ!可愛くぬい活している自分が好きなだけだろ!所詮SNSにあげるだけのアイテムだったんだろ!本当に色々な経験をさせたいと思ってんなら、お前でやれよ!僕のとこでできた経験なんて、ねーよ!ずっとラッピング袋の中にいるんだからな!
次から次へと心の中で低俗な暴言が溢れ出てくる。そして思う。なんてタイミングがいいんだろう。もしかして虫の知らせでもあったのだろうか。
というのも、実は近々、Dさんのぬいぐるみを処分しようと思っていたのだ。他人のぬいぐるみを処分なんてひどい……と思われる方もいらっしゃるだろうが、そもそも連絡も寄越さず迎えに来ないDさんが悪い。そんなぬいぐるみをいつまでも僕が保管する義理もないだろう。それに他人のぬいぐるみが家にあるのは、本当に本当に嫌だった。
処分とはいえ、さすがにぬいぐるみをゴミに捨てるのは忍びない。だから今度の休日に、お寺でぬいぐるみを供養してもらおうと思っていたのだ。自分の物じゃないし、供養は有料だし、時間の無駄だし……とデメリットしかないが、まあ仕方ない。ぬいぐるみをゴミ箱にいれる勇気がないのだから。
タイミングが良いのか悪いのか、そういう状況の中Dさんから連絡が来た。
さて、どうしよう。
