マジでこのぬいぐるみどうしよう……。
それに尽きる思いだった。
"次回お会いする時まで、ぬいちゃんのことよろしくお願いします"
Dさんのラインにすっかり呆れた僕は、彼女に返事をする気が失せてしまった。なに言ってんだ、こいつ。そんな気持ちだった。あれだけDさんとお酒を飲んだにも拘らず、酔いは完全に冷めていた。が、冷静とはいかず、かなりイライラしていたと思う。頭の中が刺々しかった。
Dさんにぬいぐるみを拾ったと伝えた後、彼女とは滞りなくラインをしていたのだ。それが僕が「品川に行くので、ホームで待っていていただけませんか」と提案した途端、既読無視したDさん。僕に返事をしなかった空白の時間に色々な事情があったのかもしれないが、結果的にDさんはぬいぐるみよりも、友達と飲みに行くことを優先した。それは僕は、信じられなかった。
とりあえずDさんのぬいぐるみは救助して家に帰ったものの、すごく不愉快な気分だった。Dさんの決断には、もちろん腹が立っている。だがそれ以上に、"親しくもない人の忘れ物を預かっている"という事実が、僕をモヤモヤさせた。
ただでさえ、得体の知れないぬいぐるみを触りたくないというのに、それがテーブルの上にあるという現実。僕は潔癖症というわけではないが、とにかく他人の物が自宅にあるのが落ち着かない。しかも、ぬいぐるみを無傷でDさんに返さなければならないという任務が、重苦しかった。
もしDさんに、「ここに心当たりのない汚れがついてるんですけど」と言われたら?「縫い目がほつれているんですけど」なんて言われたら?
……責任重大だ。
僕は保護したぬいぐるみを丁寧にラッピング袋に入れて封を閉じ、棚の中に厳重に保管した。 なんで仲良くもない他人のぬいぐるみにこんなことを……!と何度思ったか。だがぐっと堪えて、手厚く面倒をみた。
そうやって僕がぬいぐるみに神経をすり減らしているというのに……Dさんからは何も連絡がなかった。
