4軒目のお店に選んだのは、立ち飲み居酒屋。お店のジャンルは問わないというDさんの言葉を信じて、比較的回転が速い立ち飲み居酒屋をセレクトした。本当は椅子に座って腰を下ろしたかったが、そうなるとDさんと過ごす時間がさらに長くなる。だからここはさくっと一杯飲んで、さっと帰れるお店が適切。幸いドア越しから空いている席が見えたので、チャンスとばかりに僕は暖簾を潜った。
「……なんか今までのお店よりも客層が悪いですね。大学生の悪ノリ?みたいな雰囲気のお店ですね」
「そうですね……もしかしたら他のお店よりもお値段が手頃なのでそうかもしれませんね」
「確かにお酒のお値段とか、びっくりするくらい安いですね。それなのにちゃんとアルコールだからすごい」
「ええ」
「でもホピ沢さん。これ私だから全然別にいいですけど、普通の女の子をこういうお店に連れてきちゃだめですよ」
「……」
もしかしてこれ……"私だから全然別にいい"って言ってるけど……本当は"全然別によくない"ってこと……?
おい、D!お前が"ジャンル問わず入れるお店ならどこでもいい"って言ったんじゃねーか!今更何言ってんだよ!別にこのお店言うほど客層悪くないし!お店綺麗だし!普通の賑やかな酒場だし!つーか客層を気にすんなら下町の居酒屋で飲むなや!
「本当に私だから対応できますけどね。実際こういうお店が苦手な女の子は多いですよ。気をつけてくださいよ〜」
「……」
……ちなみにこのお店は曰く付きのお店でも何でもなく、首都圏を中心に展開している某居酒屋チェーン店だ。Dさんの口振りから、このお店には蒲田の荒くれ者が集っていると思われている方もいるかもしれないが、決してそんなことはない。賑やかなだけの、本当に普通の居酒屋だ。
Dさんは中(焼酎)が多めの黒ホッピーをぐびっと飲んだ。ホッピーは中(焼酎)とホッピーの瓶の中身を割って飲むのだが、このお店がグラスに注いでくれる中(焼酎)はとにかく量が多い。ホッピー360mlを飲み切るまでに、おそらく中(焼酎)を2回はお代わりすることになるだろう。よりによって何で長居必須のお酒を選んだんだよ、と思いながら僕はハイボールを飲んだ。
「今日は蒲田で飲めて楽しかったです。餃子はアレでしたけど、他は美味しかったですし」
「……それはよかったです」
「こんなに色々飲み屋があると、蒲田に引っ越したくなりますね。羽田空港も近いので便利ですし。家賃はどんな感じですか?安いですか?」
「もちろん安いところもありますが……都内ですから、一般的な住居はそれ相応の家賃ですね」
「なるほど。ホピ沢さんは蒲田から引っ越ししたいと思ったことはありますか?」
「今のところはないですね。ですがどうしても蒲田から動きたくないというわけではないです」
「じゃあもし彼女が蒲田に住みたくないって言ったら、あっさり蒲田から引っ越せる感じですか?」
「そうですね。そもそも相手に、蒲田に住むことを強要するつもりはないです。お互いがベストだと思うエリアに住めればいいなと思います」
「ふーん。じゃあ例えば私とホピ沢さんのベストなエリアはどこだと思いますか?」
……?
「私とホピ沢さんだったら、どこに住むのがベストだと思いますか?」
……??
