「餃子は期待はずれだったしなあ。そういうわけで、ホピ沢さん。ここで一旦、口直ししませんか?」
……は?
「やっぱり最後は、美味しかったなあっていう口で終わりたいじゃないですか。それにしては餃子はイマイチだったので。ちょっと口直ししませんか?」
羽付き餃子のお店を出た瞬間、Dさんはそう言った。これでようやく解散だと思い駅に向かって歩き出していた僕は、思わず立ち止まる。そして彼女の言葉に耳を疑い、つい聞き直してしまった。
「口直しですか……?」
「はい。ちょっと口直ししたいです」
ちょっと口直し……?
おいD……マジかよ。
「とりあえずもう少し飲みたいです」
うそだろ……まだ満足してないのかよ!お前、もつ焼き、立ち飲みイタリアン、羽付き餃子と3軒も梯子しただろ!どのお店でも全力で食べただろ!つーか13時から飲んでんだよ!そろそろ解散でいいだろ!なげーよ!僕ら会うの二回目だよ?二回しか会ってない人にぶつけるテンションじゃねーよ!食べ飲み足りないんなら1人で行けよ!
「……結構飲みましたし食べましたけど、体調とか大丈夫ですか?酔って気持ち悪くなってないですか?」
「全然大丈夫です。むしろどんどんエンジンがかかっていくっていうか。胃袋が開いていくんですよ」
「胃袋が開く……」
「お酒飲むと色々感覚がバグるじゃないですか。私の場合食欲のリミッターが一気に外れるんですよね」
「それはなんとなくわかります。ですがそういう時は危険……」
「本当に大丈夫です。それにまだ20時ですし、解散には早い時間ですしね」
会うのが二回目とはいえ、僕とDさんが意気投合しているのなら、長時間一緒に過ごしても全然構わない。しかし僕とDさんは、お世辞にも意気投合しているとはいえない。一応滞りなく会話をしているが、手応えが何もないうわべだけの話。根暗の僕と圧倒的光の中で生きているDさんの波長は、全く合っていない気がする。それはDさんだって、感じているだろう。なのにどうしてまだ僕と飲もうとするのだろうか。
「ここら辺でさくっと入れるお店ないですか?人気とかジャンルは問いませんので」
Dさんにそう言われ、僕は腑に落ちない気持ちで4軒目のお店へと案内することにした。
