既にお伝えしていると思うが改めて、僕は潔癖症でもないし神経質でもない。だが今回、Dさんの"トイレの後に手を洗わない"疑惑で、気づいたことがある。思いの外僕は、トイレの後に手を洗わない人に対して、強い嫌悪感を抱いているということだ。
「すみません。ラインを返信していたので、まだお会計してなくて……今します」
「そうですか。ではよろしくお願いしますね」
なにが「ではよろしくお願いしますね」だよ!一言お礼ぐらい言えや!
奢られて当然という態度で颯爽と店内から出て行ったDさんに続き、僕はお会計を済ませて退店した。このお店が位置する場所は、蒲田駅前の飲み屋街。数多くの飲食店が軒を連ねているので、容易にはしご酒が楽しめる。そんな活気あるエリアをDさんはきょろきょろと見渡して、「次は何系のお店に連れて行ってくれるんですか?」と言った。三軒目も当然行く、という口振りだ。
「んー、でもお酒もいいけど、小腹が空いてるかも。ちょっとこの辺で一回、炭水化物を挟みたくないですか?」
「……」
だが僕は、もうそろそろ本当に帰りたいなと思っていた。一軒目のお店でDさんが店員さんに失礼な態度を取ったこと、所々人を馬鹿にするような発言をすること、元彼にやり直し誕生日パーティーをさせたこと、手を洗わないこと、その他諸々。これら全ては、些細なことで我慢できる内容かもしれない。しかし僕には、許容できないなと感じた。他人の気持ちを考えて行動できない人とは……難しい。
「そういえば、Dさん。お時間は大丈夫ですか?」
時刻は18時過ぎ。大人にとって18時はまだまだ序の口だが、僕とDさんは所謂、昼飲みをしているのだ。13時から飲み始めたため、既に5時間は経過。アルコールも随分飲んだし、お腹もいっぱいだ。シラフならまだしも、酔っ払った頭で長時間会話をしても、得れる物はないだろう。だから僕は、お開きを提案してみた。それに僕は帰りたい。
「時間?全然大丈夫ですけど」
「そうですか……」
「あ、そういえば蒲田って餃子が有名でしたよね?確か……羽付き餃子?」
「ええ……」
「わ、食べてみたいです!18時……ちょうどディナータイムですね。混んでるかなあ……。今から行っても大丈夫ですか?予約なしでも入れますか?」
「……少し待つかもしれないですけど、回転が早いので入れます。あと仮に混雑していても、蒲田内には支店が何軒かあるので……」