飲み歩き二軒目は、立ち飲みイタリアン。そのお店の隅にあるドラム缶型のテーブルの前で、僕とDさんは一時間ほど滞在した。Dさんはこのお店をお気に召したのか、相当上機嫌で、「安くて美味しくて最高です」と何度も口にしていた。それは良かったなと思う。だがDさんは酔っ払って気分がいいのか、時々店員さんや他のお客さんに絡むという、少々ヒヤヒヤさせられる言動を連発。僕はDさんを諌めるのにすごく神経を遣い、疲れてしまった。そしてお店の人気メニューであるピザを堪能し終えてグラスが空になった頃、そろそろ退店しようという雰囲気になった。
店員さんにお会計の合図を送った僕は、Dさんの行動に注目した。
おい、D!お前またあれやんだろ!僕よりも先に伝票の金額を確認した後 、「あとはよろしくお願いしまーす」って言ってトイレに行くヤツ!だからトイレは会計前に行けって言ってんだろ!「あとはよろしく」じゃねーよ!
案の定Dさんは僕よりも先に店員さんから伝票を受け取り、「ふーん……」と言って金額を確認した。支払う気もないのになんなんだよ、その儀式は。そして予想通り、Dさんは伝票をテーブルに伏せた後、「私、お手洗いに行ってきますね。お会計お願いします」と席を立った。
ここまで悪びれも感謝もなく、奢られることを当たり前と思う人って、世の中にいるんだな。婚活をしなければ出会えなかっただろうなと思う。
もやもやした気持ちを抱えてお会計をしようと思った瞬間、僕は、はっとなった。
おい、D……。お前今度はトイレの後、手洗うよな……?
一軒目のお手洗いと同様、このお店のお手洗いも、個室内には手洗い器などは設置されていない。手を洗うためには、お手洗いから出た先の、客席から見える剥き出しの洗面台で洗うしかないのだ。
意地悪いかもしれないが、どうしても僕は、Dさんが手を洗ったのか、それとも洗っていないのか……を確かめたかった。そのためDさんがお手洗いから戻ってくるまで、お水を飲んだり、スマホをチェックしたり、財布の中身を確認しながら席で待機。そうこうしていると、Dさんがトイレの個室から出てきた。
……。
……?
……!?
「あれ?まだお会計してなかったんですか?」
Dさんはやはり、洗面台を完全スルーして戻ってきた。
その手は……洗った形跡が……ない……。