「もう一度誕生日プレゼントを買い直してもらって、私の好きなレストランを予約してもらって、ケーキも用意してもらって、二回目の誕生日パーティーをしました」
「に……二回目ですか……?」
「当たり前ですよ。彼女の誕生日を忘れる彼氏なんて、ありえないです。当然やり直しさせますよ。二回目の誕生日パーティーは私がプロデュースしたので満足しましたけど、元彼にはすっかり冷めちゃって別れました。彼女の気持ちを察することができない、彼女を喜ばせることも自分で計画できないんだなあって、がっかりしちゃって」
……やばい。Dさんは……やばい。
あっけらかんと"やり直し誕生日パーティー"の顛末を語るDさんに、僕は心の底から引いてしまった。いや、引いたというか、理解が全く追いつかなくて、混乱していると言うべきか。確かに言わずとも、彼女の誕生日を忘れた元彼の罪は重い。まあ自分だったら……例え彼女に誕生日を忘れられてもなんとも思わないし、むしろ笑い話にする。が、女性の中にはイベント事を重視する方が多いと聞く。それもただのイベントではない、誕生日。Dさんが憤慨するのもわかる。
しかし後日元彼が誕生日パーティーをしてくれたにも拘らず、自分好みのプレゼントやレストランでなかったことに腹を立て、やり直しをさせるDさん。もしかしたら元彼は相当的外れなパーティーを計画したのかもしれないが、それでも普通、気に入らなかったからといって、やり直しをさせるだろうか。Dさんはありがとうの気持ちよりも、不満が爆発してしまったのだろうか。僕の感覚では、ちょっと考えられない。
そもそもどうして、誕生日だからと言って、プレゼントやパーティーをしてもらえると思うのだろう。さも当然のように"誕生日だから何かしてもらえる"という思考に、僕は驚きを隠せない。Dさんは盛大に誕生日を祝ってもらわないと、許せないのだろうか。
特別なことはせずに通常通り誕生日を過ごしたい僕とは……完全に合わないだろうな。
「というわけで、私は重くて細かい女なので。男性には手に負えないんでしょうね。だから結婚までいかないんだと思います。でもこれでも、何度か結婚話はあったんですよ」
「はあ……」
「結婚はしたいです。1人も楽ですけどね、やっぱり1人よりは2人がいいです。だけど何かを犠牲にしたり、諦めたり、譲らないと結婚できないのなら、結婚は無理かもなって。そういう葛藤をしながら婚活しています」
「……」
「ホピ沢さんはどうですか?」
「僕は……夫婦はチームだと思うので。チームとしてやっていくには、多少の犠牲や妥協は当然かなと考えています。でも僕はそれを苦痛だとは思わないです。仲良く楽しく暮らす上で必要なことだと思うからです」
少し言い過ぎてしまっただろうか。ちらりとDさんを伺うと、意味ありげな表情をしながら口角を上げてホッピーを飲んでいた。僕の考えは甘いとでも言いたげな雰囲気だ。そしてフンと鼻で笑うように、こう言った。
「そのホピ沢さんの考え、いいと思いますよ」
馬鹿にされて……いるのだろうか。