Dさんのペースに引っ張られてしまった僕は、気持ちがどんどん冷めていき、美味しくお酒が飲めなくなっていた。そのマイナスの感情に至るまで色々な出来事や葛藤があった訳だが、一番はDさんが店員さんに横柄な態度をしたこと。あの強気な口調と高圧的な振る舞いは、決定的だったと思う。既に僕の思考は、"いかに早くこの会を終わらせるか"になっていた。
「ホピ沢さんは、これまでどんな女性とお付き合いされてきたんですか?」
お手洗いから戻った僕に、Dさんは唐突にそう質問してきた。下火になっていく気持ちの所為で全く酔えない僕とは違い、Dさんはふわふわ楽しそうに酔っている雰囲気。しかし、ただ酔っているだけならまだしも、"5歳年上のお姉さんが恋愛をアドバイスしてあげる"的な、謎に先輩風を吹かせてくる。ああ、これはやっかいな感じになったなあ、と僕はげんなりしてしまった。
「どんなって……そうですね、皆、明るく楽しい女性でしたよ」
「あー!悪く言わないようにいい人ぶってる!明るく楽しい女性だったら、今も付き合ってたか結婚してるでしょ!」
「……」
「まあでも、見ず知らずの他人に元カノのことをぺらぺらと悪く言わないとこ、いいと思いますよ。私の中でホピ沢さんの好感度、ぐんっと上がりましたね。私の周りの男性は、元カノのこと愚痴りますもん」
「……」
「なんで別れたんですか?ぶっちゃけホピ沢さん、いい物件だと思いますよ?お仕事もちゃんとしてるし、年収もあるし、学歴もいいし」
「ははは……」
「……もしかしてここでは言えない、ヤバい性癖があるとか?」
……おい、D!お前うるせーよ!今すぐその口閉じれや!黙れや!酔いすぎなんだよ!
「Dさんこそ。とてもお綺麗なのに、婚活されていることが不思議です」
「あー、それは多分、私、重くて細かい女なんだと思います」
「重くて細かい女……?」
「連絡はまめに欲しいし、イベントごとは忘れないできっちりやって欲しいし、サプライズ的なこともして欲しい。雑に扱われるのが嫌なんですよ、私」
「……」
「いつかの元彼には、誕生日を忘れられて。それで一気に冷めちゃいました。後日、ディナーをして、その時にプレゼントくれたんですけど、そのブランドが女子大生向けのブランドで。さらに冷めましたね。さすがにいい大人にこのブランドはないでしょ?舐めてんの?って思いました。レストランもチョイスが微妙で、美味しくなかったんですよ。だからやり直しさせましたけど、結局冷めた気持ちは戻らなかったです」
え……?やり直し……?
「もう一度誕生日プレゼントを買い直してもらって、私の好きなレストランを予約してもらって、ケーキも用意してもらって、二回目の誕生日パーティーをしました」
……ちょっと何を言っているのか全然わからない。