2025年9月12日金曜日

40代男が婚活パーティーに行ってみた49

「こっちはお金払って飲みに来ているんですよ?忙しいとか店員さんの都合は関係ないです。プロなら忘れちゃダメですよ」
 

僕とDさんの間に緊張感が漂い始めた時、ようやく最初の一杯目がテーブルに運ばれてきた。僕は黒ホッピーのセット、Dさんは瓶ビール。「お待たせしてすみません」と本当に申し訳なさそうに謝る店員さんに、僕は「こちらこそすみません」と頭を下げた。しかしDさんは険しい表情で、「本当ですよ。次からは気をつけてくださいよ?」と追い打ちをかけた。
 
「ああ、やっときましたね。待ちくたびれちゃった」
「ええ……」
「じゃあ早速乾杯しましょうか。お疲れ様ですー!今日はありがとうございます!かんぱーい!」
「か、乾杯……」 

キンっと音を立ててグラスの縁を重ねた後、Dさんは一気にビールを飲み干した。大衆酒場ではDさんのような飲みっぷりは珍しいことではないが、瓶ビールを秒で飲み干しそうな豪快さはなかなかすごい。まるでお水のようにお酒を飲む人だなと呆気に取られつつ、僕はDさんに瓶ビールを注いであげようとした。
 
「あ、手酌で大丈夫です。気を遣わず好き勝手にやりましょう。ホピ沢さんは私の部下じゃないんで、そういうの気にしなくてオッケー」
「あ、はい……」
「あー、うめえ」
「……」
「このビールが、今日初めて摂った水分なんですよ。はあー、うまっ」
 「……」
「あ、うめえとか言っちゃった!引いた?引かないで!なし!今のなし!普段は言ってないですからね!ついポロッと出ちゃっただけですから!」

いや……うめえとかそんなんはどうでもいいんだよ!むしろ常習的に言ってるだろうと思ってたよ!公衆の面前で店員さんを平気で叱責する奴は普通に言ってるだろうよ!そんなことよりなんだよ、その"ビールが今日初めて摂った水分"って!そっちの方が引くわ!
 
Dさんのテンションがぐんぐん上がっていく一方、僕は急降下。居心地がすごく悪かった。Dさんが店員さんに文句を言ってからというものの、気持ちが落ち着かないのだ。気にしすぎかもしれないが、店員さんには腫れ物扱いで気を遣われているし、周囲からの視線もなんとなく痛い。心なしか他のテーブルよりも優先的に、僕達のテーブルに料理が運ばれている気がする。言ったもん勝ちのような状況が、本当に心苦しかった。
 
かつて週一回のペースで通っていた馴染みのお店に、こんなに申し訳ないことをしてしまった。後悔しても遅いが、もっとDさんに反論すればよかった。あんな言い方しなくてもいいじゃないか。もっと優しく言えばいい、ただそれだけのことなのに。店員さんに横柄な態度を取るなんて、本当に許せない。
 
店員さんに、面倒な客だと思われてしまった。こんな気持ちで飲むお酒は当然美味しくなく、僕はここから消えたくなっていた。

「……Dさん、焼き物を頼んだら次のお店に行きませんか?蒲田の飲み歩きは、さくっと飲んでささっと出るのがルールです」

気づいたら僕はそう口走っていた。
 
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