待ち合わせ時刻ぴったりに、改札機を通り抜けた女性が僕に向かって近づいてきた。おそらく、Dさんだ。彼女と会うのはこれが二回目なので、すぐにDさんだと断定できたわけではない。パッと見てもすぐには確信が持てず、しばしの間その女性を注視してしまった。しかし彼女のブランドバッグにぶら下がっていた某漫画のキャラのぬいぐるみを見て、Dさんだと理解した。
先日は特に言及しなかったが、実はDさんは自身のブランドバッグに、某漫画のキャラのぬいぐるみをつけていたのだ。最近はぬい活という言葉があるので、ぬいぐるみと共に出かけることは、そう珍しくないのかもしれない。だが僕は、大人の女性が、それもDさんのような圧倒的陽キャで、漫画やアニメとは無縁そうな女性が、某少年誌のキャラのぬいぐるみを持っていることに、意外性を感じてすごく驚いた。
「こんにちは。今日はお誘いありがとうございます。下北沢から蒲田まで遠かったですよね?わざわざ来ていただいて、すみません」
「こんにちは!遠い?いえいえ、電車に乗ってるだけなので、全然遠くないですよ。むしろ思ったよりも近!蒲田近!って感じでした。私フットワーク軽いんで、全然余裕です」
「そうなんですね。では早速ですが、お店に向かいましょうか」
「……」
Dさんをお店に案内しようとした時、ふとDさんが僕をじっと見つめていることに気がついた。なんだろう、まるで上から下まで、全身を舐め回すような視線だ。正直、気持ちのいいものではなかった。当初は気づかないふりをしようと振舞っていたが、Dさんは僕を意味ありげに眺めたまま。何か言いたげだった。もしかして僕の顔に鼻くそでもついているのか?それとも社会の窓が全開だったとか?
「……どうかしましたか?」
あまりにDさんにジロジロ見られているので、僕は彼女の視線を無視できず口火を切ってしまった。するとDさんはニヤリと笑って、僕の肩を馴れ馴れしく肘でこづいてきた。
「いやあ、なんか今日のホピ沢さん!気合い入ってるなあって思って!この間とは雰囲気が違うので、びっくりしました!もちろん、いい意味で!いい意味ですよ!え、どうしたんですか?もしかして結構頑張ってくれた感じですか?」
そう言って、にやあ、と口角を上げるDさんに、僕は絶句した。本人にその気はないのだろうが、むしろ褒めているつもりなのだろうが、まるで人を小馬鹿にしたような口振りだ。彼女のニヤニヤと吊り上がった口元が物語っている。
「ホピ沢さん、なんか可愛いですね。今日のために色々と勉強してくれた感じですか?」
その言葉は、僕に追い打ちをかけた。瞬時に全身に羞恥心が駆け巡り、恥ずかしさと逃げたさと死にたさで、どっと汗が吹き出す。恥ずかしい。色々な感情でぐちゃぐちゃだったが、これだけは確実に言える。僕は"恥"を感じていた。
「いいと思いますよ〜!男性のその、"頑張ってる感"!私そういうの、本当に大好物です!」
今すぐ……帰りたい。