もうメニューに関しては、何も言うまい。「私のおすすめのアラカルトをチョイスしちゃって大丈夫ですかあ?」と、異論は許さないという雰囲気を醸し出すDさんに、僕は注文をお任せすることにした。こういうDさんのように、飲食店に強いこだわりがある人に歯向かっても、いいことは一つもない。本当は白ワインではなくてキンキンに冷えたイタリア産のビールが飲みたかった……が、「ここは白ワイン!」と言い張るDさんの機嫌を損ねたくなかったので、僕は大人しくワイングラスを持った。
「はー、美味しいですね。なんか生き返るっていうか、やっぱりお酒はいいですね。喉乾いてたから、もうこんなに飲んじゃいました」
乾杯を済ませた瞬間、Dさんは勢いよく白ワインを煽った。
す、すごい……。白ワインをほぼ一気飲みだ……。
実際は一気飲みではないが、グラスの底に残った白ワインは、ほんの僅か。ほぼ一気飲みだった。まるでビールのように、Dさんは喉越しを意識してぐびぐびと流し込む。ビールや酎ハイなら構わないが、ワインを一思いに飲む人を目にしたのは初めてだったので、僕は心の底から驚愕した。ていうか、そんなに喉が乾いていたのならビールにすればよかったのでは……。
「もう一杯いただいても、いいですか?いただいちゃいますけど。なんかペース早くてすみません。いつもこんな感じなんですよ。無駄にお酒はイケちゃうんで」
「いえ、気持ちのいい飲みっぷりですね。Dさんとお酒を飲むのは楽しそうですね」
「よく言われますぅ〜。ホピ沢さんも全然遠慮しないで、ガンガンいっちゃってくださいね」
もしかしたらDさんのグラスの中身は、ワインでなくてお水なのではないだろうか。そんな錯覚に陥りそうなくらい、Dさんの飲みっぷりは勢いがあった。お酒が好きな僕としては、飲めない女性よりは飲める女性の方がありがたい。そしてどうせ飲むなら、豪快に喉を鳴らして美味しそうに飲んでくれる女性が、いい。そう、Dさんのように。
しかしDさんは、まるで遠慮がない。お酒を嗜むというよりは、とにかく飲んで飲んで体内に入るだけ詰め込んでやるという、大人気ない飲み方だった。まるでお酒を覚えたての、自分の限界を知らずにとりあえず飲みまくる、大学生のようだ。いやお酒を知っているからこそ、こういう飲み方になってしまうのだろうか。
「ちょっと聞いちゃっても大丈夫ですかあ?」
Dさんおすすめのアラカルト、4種の前菜盛り合わせプレートが到着してすぐ。二杯目の白ワインのグラスを傾けながら、Dさんがそう切り出した。
「どうして私を選んでくれたんですか?」
