「ここから少し歩いた先にカフェがあるんですけど、宜しければそこはどうでしょうか?もしDさんがご存知のお店があれば……」
「あー……、そのカフェってあれですよね?あれ、名前が出てこない。でも知ってます。そこでも全然いいんですけど……うーん、えーっと、待って待って、今私も探しますので」
……そこでも全然いい?うそつけ、全然良くないじゃないか!
「あそこはどうかな。うーん微妙かも。じゃあこの間行ったとこどうかな。え、どうしよう。なんかごめんなさいね、1人でブツブツと。無駄にお店だけは知ってるんで、色々と候補が出ちゃうというか」
「……お詳しいんですね」
「そうなんです、この辺でよく飲むんで。なんなら1人でも普通に行っちゃうんで。ホピ沢さんも、このエリアは押さえておいた方がいいですよ。さらっといい感じのお店に連れて行ってくれる感じの男性は、ポイント高いですし」
……。
Dさんは、僕が提案したカフェはお気に召さなかったらしい。やんわりと僕への忠告を挟みつつ、あーだこーだ言いながらお店の候補を挙げてくれた。それらはどれもおしゃれで、雰囲気が良さそうだった。カフェではなく完全に食事メインで、コーヒーと軽食だけでは許されないと思う。僕としては、カフェでぱぱっとトークして解散……的な流れを考えていた。面白味はないかもしれないが、手始めとしては無難だと思う。だから、重めのランチを捩じ込もうとしてくるDさんとの認識の差に、困惑した。
「このお店はどうですか?おしゃれで美味しくて、店員さんがイケメンでいい感じなんですよ」
「ええ……」
「あ、心配しなくても、もちろん美人の店員さんもいますよ!そこは全然安心してください!」
全然心配してねーよ!店員さんの容姿なんて気にしてねーよ!
そりゃあ僕だって、スマートに女性をおしゃれなお店にエスコートしたい。もしこれが恋人とのデート、もしくは好きな人との食事だったら、全力でそうする。だが今会ったばかりの女性とこれから軽く話をするというシチュエーションで、いきなり濃厚なランチコースが売りのおしゃれなお店を選ぶものなのだろうか。しかもDさんは、しっかりお酒を飲む気満々だ。初対面の人とのミーティングにしては、随分攻めている気がする。
「ではDさんのおすすめのお店に……」
「はーい、オッケーです。混んでたらこっちのお店にしましょう」
「はい」
「あーでも、こっちのお店はワインがいい感じなんだよなあ。やっぱ迷うな〜」
「……」
カップリング成立とはいえ、好意的に思われているかわからない、波長が合うのかわからない、実は一刻も早く帰りたいかもわからない、互いの金銭感覚もわからない……等、手探りの状況で、長丁場になりそうなお店に行きたがるDさんを、僕は理解できなかった。
「ホピ沢さん、ワインお好きですか?」
「ええ」
「いいですね。こういう日は白ワインを飲みたくなりますよね」
正直なところ無難にカフェで軽いトークがいいと思うのだが……。僕がDさんに連れて行かれたお店は、席に案内してくれる時、注文を受けてくれる時、料理説明をしてくれる時、料理を持ってきてくれる時、お会計の時、その他連絡事項等で、いちいち大袈裟に店員さん同士がイタリア語で叫び合う、イタリアンバルだった。
