「出会いを求めて頑張ろうっていうパーティーに、いきなりこんなデブがいてびっくりしましたよね?本当なんかすみません〜。デブのくせに参加してしまって申し訳ないんですけど、うっかり申し込んじゃいました!すみません!よろしくお願いします!」
「ホピ沢さんは食べることがお好きなんですね!私も好きですよ。あ、言わなくても見てわかりますよね!えっと好きな食べ物は……え、炭水化物!?普通こう言うのって、ハンバーグとかカレーとか料理名を書きませんか?」
僕のプロフィールの好きな食べ物欄を見たBさんが、クスクス笑いながらそう言った。
「あ、そうですよね。一応好きな食べ物はたくさんあるんですけど、結局ラーメンやお米などの主食が好きなので、炭水化物と書いてしまいました」
「わかりますー!私も好きな食べ物の欄にお刺身って書いちゃいましたけど、いや好きなんですよ!お刺身!でもやっぱり炭水化物が大好きです!」
「いいですね。炭水化物は安心しますよね」
「はい、美味しいですしね。特に私が好きな炭水化物は、小麦系です。パスタとかラーメンとパンとか、もう最高です。とは言っても、やっぱりお米も大好きです。デブなので、食べるのだけはめちゃ得意なんですよ。って言わなくてもわかりますよねえ〜」
「食べるのが不得意なデブなんていませんよね」と言って、特別暑くもない爽やかな季節なのに、ハンカチで額の汗を拭いながら、扇子をパタパタ仰ぐBさん。真夏を先取りしているような、ノースリーブのワンピースから露わになった頼り甲斐のある腕は、心なしか湿っていた。本当に暑そうだ。「デブなのですぐ暑がっちゃうんですよ。暑苦しくてすみません」と笑うBさんに対して、僕は少々複雑な気持ちだった。
というのも、Bさんは何度も自身を、"デブ"と自嘲するのだ。確かにBさんは、正真正銘のデブだ。でも別に痩せが正義でデブが悪というわけじゃないし、デブだからといって自分を貶めるのはおかしい。Bさんが自虐的な発言を繰り返すのは、自衛だろうか。他人に触れてほしくない部分を自ら面白おかしく話すことで、自分を守っているのだろうか。そんなこと言わなくてもいいのにな、と思う。
Bさんは、都内の病院に勤務している37歳の医療事務員。失礼とは承知の上で、改めてはっきり言う。彼女の言葉通り、外見は見紛うことなきデブだ。身長154センチと小柄ながら、体重は90kg超えらしい。過去には、100kgの大台に乗ったこともあるようだ(Bさんが暴露)。 その時は慌ててダイエットをして何とか二桁に戻したそうだが、油断するとあっという間に三桁になってしまうらしい。太る才能がありすぎて困る、と笑っていた。
Bさんはあえて小さめのサイズを選んでいるのかもしれないが、体型に合っていなさそうに見えるノースリーブのワンピースは、はち切れそうなくらいピッチピチ。今にも胸元のボタンが弾け飛びそうだ。もしかしたら身体のラインが出るピタッとしたファッションが、好きなのかもしれない。体型カバーとは無縁のタイトな洋服のせいで、Bさんのお腹がでっぷり出ているのが丸わかりだ。何を着ようと自由とは言え……少々目のやり場に困るなと感じた。
だがボリューミーな体型とは裏腹に、顔立ちや目鼻立ちは整っていて可愛らしい。Bさんがぽっちゃり専属のモデルだと言われたら、普通に納得してしまう綺麗な容貌だ。それに顔には肉がつかない体質なのか、顔だけで判断すると太っているようには全く見えないから不思議だ。
とにかく痩せていようが太っていようが、Bさんは美人だと思う。だからそんなに自分を卑下する必要ないのになと感じた。むしろ僕の方が、チビおじさんブサイクエトセトラ……色々とヤバいだろう。
「研究職って大変そうですね。私の勤め先にも研究者がいるんですど、本当すごいなあって思います。私は代わりのきく医療事務なので、毎日お気楽って感じです」
Bさんは口を開けば必ず自虐して、自嘲する。それがどうしても気になった。
