「ホピ沢さん。弊社で一緒に頑張ってみませんか?弊社に決められない理由はなんですか?」
弊社に決められない理由……?っておい、山田(仮名)!さっき説明したじゃねーか! 他の結婚相談所のお話も伺いたいと思っているって言っただろ(嘘だけど)!それにこんな高額案件を即決できる気前なんて持ち合わせてねーよ!
「確かに他社様のサービスも素晴らしいと思いますが、弊社は誰よりもホピ沢さんのご結婚をサポートできる自信があります。全力でお支え致します。それにも関わらず、ホピ沢さんが我々と一緒に頑張れない理由はなんでしょうか」
逃げ場のない獲物をさらに追い詰めるかのように、山田(仮名)さんは一気に畳み掛けてきた。僕のような押しに弱いタイプの人間には、少々高圧的になっても構わずにぐいぐいいけば、籠絡できると思っているのかもしれない。凄まじい営業魂を見せつけられた僕は、怒られているわけではないのに、咎められている気分だった。
「ですから先ほども申しましたように、他の結婚相談所のお話を伺ってから決断したいと……」
「その決断の遅さが明暗を分けるんです。のんびりしている時間はありません。ぜひ我々と一緒に頑張りましょう。申し込んだ後に違うとお感じになられたら、クーリングオフもできますのでご安心ください。それでも頑張れませんか?」
えっと……と僕が口籠れば、山田(仮名)さんは容赦無く口撃してくる。「頑張れない理由は他にもあるんですか?」と言われ、僕は閉口。 "それでも頑張れませんか"って……かなりグサグサくるキツい言葉だなと思った。頑張ろうと思っているからここに話を聞きに来ているのに、入会を渋るだけで頑張れない認定されるのは……抉られる。
「もしかして金額についてご納得いただけてないのでしょうか。それなら大丈夫です。弊社は分割払いにも対応しておりますので、ホピ沢さんのご都合の良いお支払い方法をご選択できます。分割払いを利用されている会員様は、多くいらっしゃいますから」
おい、山田(仮名)!そうじゃねーよ!別に分割払いに悩んでるわけじゃねーよ!確かに高額料金に怖気付いてはいるけど、支払えないってことじゃねーよ!金額が高いから入会を即決できないって話だよ!
「やはり他の結婚相談所のお話も伺いたいと思っておりますので。今日のところは一度保留ということで、後日改めてお返事させていただきます」
「……そうですか。残念です。私の力不足でお役に立てず申し訳ございません。しかし前向きにご検討されているということでよろしいでしょうか?」
「え?ま……まあ……」
「では次回いらっしゃる日、入会手続きの日の予約を取らせていただきますね。弊社は夜間も対応しておりますので、お仕事終わりでも安心してご来店ください」
僕が何かを言う前に、山田(仮名)さんは予約日を取ろうとする。慌てて「予定を確認してからご連絡します」と言ったが、山田(仮名)さんは譲らない。「とりあえず予約は取っておきましょう。予定に変更がありましたら、ご連絡ください」と強引だ。
おい、山田(仮名)!ホームページに強引な勧誘はありませんって書いてあったじゃねーか!なんなんだよ、その攻勢は!つーか入会しないだけで頑張れないって決めんつけんなよ!ここに入会しない人はそれだけで負け組なのか?せっかく芽生えていた意欲を抉るような営業すんなや!
山田(仮名)さんのアグレシッブさに辟易した僕は、言われるがまま予約を取ってしまった。そうでもしないと逃げられなかったのだ。もちろん後日、お断りの電話をするつもりで。
というかその日の夜、即キャンセルをした。
