「ホピ沢さんの職場の最寄駅が△△線のXX駅……。もしかしてホピ沢さんの職場は、大宮駅からだったら通勤しやすいってことですか?」
……は?
「ま、まあそうですね……。蒲田に住んでいる今よりだいぶ通勤に時間がかかってしまいますが、大宮駅から職場に通うことはできますね。埼玉県に住んでいる同僚もいますし……」
ここは「職場と大宮駅はアクセス悪いです」、と誤魔化したいところだったが、路線図を検索してしまえば簡単にバレてしまう。その場凌ぎの嘘をついてもどうしようもないので、僕は正直に答えた。そしてその瞬間、僕はぎくりと身体が強張った。肯定した僕を見るあすぴょんさんの目の奥が、きらりと光ったからだ。
「ホピ沢さんは現在、蒲田に住んでいらっしゃいましたよね?今後、蒲田から離れるという可能性はあるのでしょうか。例えば結婚や転勤などで……」
「……それはもちろんあると思います。今は蒲田が好きなので蒲田に住んでいますが、転勤となれば否応なしに引っ越します。もし結婚となると、お相手と相談して、お互いにとってベストなエリアに住むことになると思います」
「では埼玉県に住む可能性も当然あるということですね?」
「そう……ですね……」
「少し家賃は高いですが、大宮駅から少し歩けば綺麗な賃貸マンションが結構あります。スーパーも病院も一通り揃っているので、暮らしやすいです。それにペット可能なマンションも多いので、ホピ沢さんが好きなわんちゃんと暮らせますよ」
いやペット可能なマンションは大宮だけでなく他の地域にもあるだろ……と突っ込みたいところだが、僕は異様な雰囲気を感じて口を噤んだ。
なんだろう、この空気は。
気のせいかもしれないが、まるであすぴょんさんは、僕を埼玉県に呼び寄せようとしているオーラを放っていた。少しでも僕から、埼玉県との接点を探し出そうとしている様子すらも感じる。埼玉県と僕の接点……?そんなものはない……と思う。
言っておくが、埼玉県に住むのが嫌というわけではない。しかし今まで一度もその可能性を考えたことがない状況で、「埼玉県が好きか。埼玉県をどう思うか」と質問されても、答えようがないのだ。
僕は苦し紛れに「ペットと暮らせるマンションは魅力的ですね」と話を合わせた後、「ドーナツをおかわりしようと思います」と席を立った。本当は何も食べたくもないのだが、こうしなければ逃げ場がなかったのだ。