「埼玉にもアニメグッズのお店はあるんですけど、やはり東京の方が、品揃えも活気も同志もいるので安心するんです。あ、同志といっても知人ではないですよ!その空間にいる人全員が、同じ目的を持った仲間というか……仲間と同じ空気を吸いたいんです」
あすぴょんさんはお笑いの他にアニメも好きらしい。しかも週一でこのエリアのアニメグッズのお店に通って、同志達の息吹を感じたいというのだから、筋金入りすぎる。僕はあすぴょんさんの突然の早口の語り口調に困惑しながら、相槌を打った。
「あすぴょんさんは、何のアニメが好きなんですか?お恥ずかしながら僕は最近のアニメはあまり詳しくなくて……」
店舗によっては飲茶が登場するドーナツ屋に向かって歩きながら、僕はあすぴょんさんに質問をした。質問しておいてアレなんだが、本当に最近は全然観ていないし、流行り物もトレンドも知らない。唯一僕が観ているものといえば、7つの球を集めるアニメと、エンディングにじゃんけんをするアニメくらいだ。
「私は新しいアニメを発掘していくというよりは、好きなアニメを繰り返しずっと観るタイプなんですけど……あと好きな声優さんが出ている作品をチェックする感じで……」
僕の問いに対し、あすぴょんさんは嬉しそうに複数のアニメを口にする。しかし僕の知識が乏しいせいで、あすぴょんさんが教えてくださったアニメのタイトルが呪文のように聞こえてしまい、全くわからなかった。それよりもこの直後、別の話題に意識の全てを持っていかれた。
「このエリアは楽しい思い出がいっぱいで、歩くと楽しいです。学生時代はアニメグッズのお店よりも、執事カフェに頻繁に通っていたんですよ」
「え……?執事……?」
「執事カフェです。ご存じないですか?執事の格好をしたスタッフの方が、お客さんをお嬢様やお坊ちゃま扱いしてくれるカフェです。いかがわしいお店ではないので、ご安心を!スタッフさんの言動はまさに執事そのもので、夢を見せてくれるような素晴らしい接客なんです。食事も紅茶も本格的なんですよ!スコーンなんか特に美味しくて!ディナーコースもあって、お食事も最高でした。あの空間に入った瞬間、誰もが皆、お嬢様になれるんです。あの幸せを味わいたくて、何度も通いまくっていました」
執事カフェ……。初めて聞いたのでどういう形態のカフェなのか想像がつかないが、例えばメイドカフェが男性を対象にしたものならば、執事カフェはその女性バージョンなのだろうか?お嬢様気分……?セバスチャン的な執事でもいるのだろうか。
「今は落ち着いたと思いますけど、私が学生だった頃は人気で予約を取るのも大変だったんですよ。あと私、推しの執事がいたんですけど、その執事に担当してもらいたくて。でも当日まで誰が担当になるかわからないんです。一応指名はできるんですけど。今日は誰が担当なのかなってドキドキしながら行ってました」
あすぴょんさんの早口で饒舌な執事カフェ談義を聞きながら、僕は未知の世界に思いを馳せてみる。何でも入店した瞬間から、担当の執事が至れり尽くせりのおもてなしをしてくれるらしい。
つーかあすぴょんお前、チェーン店以外のお店は敷居が高いとか緊張しちゃうとか味が美味しいかわからないから嫌だとか色々言っておきながら、執事カフェには行けるのかよ! 執事カフェの方が敷居が高いよ!緊張するよ!美味しいかわかんねーよ!
「面白いコンセプトのカフェですね。そういうお店もあるんだなって初めて知りました」
「男性もお坊っちゃまになれるので、楽しいですよ。今度ぜひ一緒に行きましょう」
「ははは……」
このお誘いは、愛想笑いで流しておく。そうこうしていると、駅から徒歩数分の、店舗によっては飲茶が登場するドーナツ屋に到着した。
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