時刻は17時になるところだった。そろそろお開きだなと思い、僕はあすぴょんさんに「そろそろ駅に向かいましょうか」と、声をかける。駅までの道中、あすぴょんさんの顔色の悪さが少し気になった。しかし、本人が「大丈夫」だと言うのだ。これ以上は触れない方がいいと思い、僕は他愛もない話をした。
「今日はありがとうございました。とても楽しかったです」
「こちらこそ、今日は誘っていただきありがとうございました。一番前の席でお笑いを観られて、感激しました」
「ではまた。失礼します」
「ええ、それでは。僕はこっちなので。失礼します」
改札口に到着した僕とあすぴょんさんは、拍子抜けするほどあっさりとお別れした。一応あすぴょんさんの姿が見えなくなるまで見送るべきなのかと思い、僕は彼女の姿を眺めていた。しかしあすぴょんさんは振り返ることもなく、足早に改札の向こうに消えていく。正直、ほっとした。こういう大勢の人が行き交う駅で、微妙な関係の人と別れを惜しむと言うか、別れ際にグダグダする時間が苦手なのだ。あすぴょんさんのさっぱりとしたさようならの仕方は、僕の心を軽くした。
電車を乗り継いで京浜東北線に乗り換えた僕は、まずはあすぴょんさんに今日のお礼のメッセージを送ろうと思った。あすぴょんさんと今後どうしたいか、どうなりたいか。それは家に帰ってから真剣に考えることにして、とりあえずお礼の文を書く。すると文字を打っている最中に、メッセージの通知が来た。
「ホピ沢さん、今日は本当にありがとうございました。とても楽しくて、あっという間に時間が過ぎてしまいました。ホピ沢さんともっとお話しできたら嬉しいです。それと謝りたいことがあるのですが、先ほどのお別れの時、とても失礼な態度とってしまいましたよね。本当に申し訳ありません。実はあの時腹痛に襲われてしまい、一刻も早くお手洗いに行きたかったんです。だからホピ沢さんにろくに挨拶もせず、そっけなくしてしまいました。不快な思いをさせてしまったのなら、本当に申し訳ありません」
やっぱりお腹が痛かったんだ。なんとなく察していたとはいえ、触れない方がいいと思いスルーしていたが、僕の対応は正解だったのだろうか。
「具合は大丈夫ですか」を文頭に置き、僕は返信をした。