2025年2月21日金曜日

40代男がマッチングアプリをやってみた 110

「もう半熟卵乗せちゃおうかな、今日は特別ってことにして。でも本当にいいのかな……50円だしなあ……。でも卵食べたいし。ホピ沢さんだったらこういう時、迷わずに半熟卵のせちゃいますか?」 

引き攣った笑顔を浮かべていた僕は、話を振られて不自然に口元が歪んでしまった。



「……僕はあまり追加トッピングはしない派なのですが、もし乗せたかったら迷わずに乗せますね」
「結構思い切りがいいんですね。意外です」
「ははは……」

50円の半熟卵を乗せるか乗せないかで思い切りがいいと言われてもなあ……と、僕は複雑な気分になりながら、あすぴょんさんの決断を見守った。正直遅えよ早くしろや、と思っていた。こういう風に書くと、僕がすごくせっかちで心が狭い性質だと思われるだろう。実際僕の本質はそうなのかもしれない。しかしあすぴょんさんは、かれこれ10分程悩んでいるのだ。大袈裟ではなく本当に10分程、うーんと首を捻ってメニューを眺めている。女性は決めるまでに時間がかかるという話を聞いたことが、あすぴょんさんはその言葉を体現している気がした。
 
「よし、決めました!50円奮発して半熟卵乗せます!オーダーしました!」 

そうしてようやく決意したあすぴょんさんは、僕の三杯目のビールと共に、半熟卵が乗ったミラノ風ドリアをオーダーした。やっとだよ、と僕はほっとし、すっかり冷めてしまったフライに手をつける。店内の騒々しい雰囲気やあすぴょんさんのマイペースに翻弄されてしまった所為で、僕は全く食欲が湧かなかった。そうこうしていると、件のミラノ風ドリアが到着した。
 
「私だけ食べるのは心苦しいですけど、いただきますね」
「ええ、どうぞ。熱いうちに召し上がってください」 
 
「いただきます」と、あすぴょんさんはスプーンでドリアを掬う。そして臆することなく、熱々のドリアを口の中に放り込んだ。その瞬間僕は、あっと息を呑む。直感的に、やばいと思う。嫌な予感しかしなかったのだ。
 
「あ………っつ!!あっつ!なにこれ熱い!!お水!」
 
案の定、出来立ての灼熱ドリアを威勢良く食べたあすぴょんさんの口内は、大惨事。真っ赤な火を吹いた。熱い熱いと取り乱して、慌てて冷たいジュースとお茶で流し込む。それでもまだ鎮火していないのか、氷をがぶ飲みしている。僕は大急ぎでドリンクバーに行き、目についたドリンクを数種類を取ってきた。それをテーブルに置く。あすぴょんさんは「すみません」と頭を下げて、喉を鳴らしてごくごくと飲んだ。まるでギャグ漫画のワンシーンを見ているようだった。
 
「ああ、びっくりした。すみません、ありがとうございます……。私熱々が好きなので、つい冷まさずに食べちゃうんです。」
「……熱々の方が美味しいですもんね。わかります」
ですよね。火傷を恐れていたら、熱々のご飯食べられないですからね
 
おい、あすぴょん!50円の半熟卵を乗せると言った僕を思い切りが良いって言ってたけど、お前の方が思い切り良すぎるだろ!少しはフーフーくらいしろや!
 
いつの間にか縋るようにビールジョッキを握りしめていたことに気が付き、僕は自分が動揺していることを悟る。わかります、なんてあすぴょんさんに話を合わせていたが、なんだか不安の塊が突き上げてくる。無邪気で微笑ましい……のだろうか。そういう大らかな気持ちにはなれなかった。
 
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