2025年2月17日月曜日

40代男がマッチングアプリをやってみた 108

「でも私は彼氏と一緒に、漫才は絶対に観に行きたいです」
 
妙に真面目な面持ちであすぴょんさんに言われた僕は、当初は愛想笑いでやり過ごそうとした。だけどふと、恥ずかしい勘違いが脳裏を過ぎる。
 
もしかしてこれ……僕とそうしたいってことなのか?
 

僕はぶるぶると頭を振った。やばい、自意識過剰もここまでくると末期だ。
 
あすぴょんさんはあくまで、"彼氏としたいことリスト"の一部を公言しているだけ。単なる未来の彼氏への願望であって、別に僕と一緒に漫才を観に行きたいと言っているわけではない。そもそもたった2回しか会っていない女性が、僕に好意を持つはずがないのだ。本当に僕はどうかしている。今さっき漫才を一緒に観ただけなのに、何を自惚れているのか。馬鹿野郎すぎる。
 
「彼氏さんと観に行けるといいですね。すみません、もう一杯ビール頂いてもよろしいですか?」 

結局あすぴょんさんに何と応えたらいいのかわからず、僕は無難に返答しビールに逃げた。あすぴょんさんもこのタイミングで、再びドリンクバーに向かう。例の如くジュース、烏龍茶、紅茶の、三つの飲み物を持ってきたあすぴょんさん。薄い黄色のオレンジジュースを飲み干し、「私もホピ沢さんのように、お酒に強くなりたいです」と言った。
 
「あすぴょんさんは、普段はお酒は飲まれないんですか?」
「すぐに酔っちゃうので、たまにしか。甘い缶酎ハイしか飲めないです。ホピ沢さんは、よく飲まれるんですか?」
「そうですね。ほぼ毎日です。仕事が終わってお風呂上がりにお酒を飲むと、やっと頭がオフモードになるので、あの瞬間が一番好きです」
「いいですね、私もそういう感覚を味わいたいです。ジュースだとちょっとサマにならないですし。ビールの味とか喉越しを理解したいです。ちなみにホピ沢さんは、何を飲まれるんですか?」 
「家ではハイボールとスコッチウィスキーですね」 
「へえー、お酒のお供はなんですか?」
「作り置きのおかずとかですかね」 
「作り置きのおかず?ホピ沢さん、料理されるんですか?」
 
あすぴょんさんの驚きは、ちょっと異常だった。目を見開いて、身を乗り出す勢いでびっくりしている。なんでこんなに過剰に反応されるのか、よくわからなかった。料理自体、何も珍しいことではない。普通のことだ。ちなみに料理をするといっても、凝った物など当然作れず、ご飯を炊き、お味噌汁を作り、定番のおかずを作るだけ。一人暮らしが長ければ、誰でも作れる範囲の料理だ。
 
「私は全然料理しないので、なんかすごいなあって思います。実家暮らしですし、やっぱり母のご飯が一番美味しいので、私がする必要ないというか……」
「確かにお母さんの料理は美味しいですよね。僕も一人暮らしを始めてから、母の料理のありがたさを感じますね」 
「あの……ホピ沢さん……」
 
あすぴょんさんが再び神妙な顔つきになった。
 
「料理をされるということは、彼女さんにも作ってあげてたんですか?」
 
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