休日の駅近のサイゼリヤには、続々とお客さんがやって来る。僕はあまりファミレスを利用する機会がないので、こんなにも大勢の方がサイゼリヤに押し寄せるのかと驚いた。そして意外にも皆、辛抱強く自身の順番が来るのを待つのだなと更に驚いた。
混んでいるから他のお店に行こうと思うのは、僕だけなのかもしれない。結局、サイゼリヤ以外の選択肢は却下だという態度をみせるあすぴょんさんの横で、僕はひたすらあすぴょんさんの推しの名前が呼ばれるのを待った。
「やっと入れましたね。思ったよりも早く入れたので、ラッキーでしたね。この店舗は二時間制なので、よかったです。他の店舗だと、時間制限がないところもあるんですよ」
あすぴょんさんの推しの名前が呼ばれるまでの約1時間20分もの間、僕とあすぴょんさんは店先でずっと待っていた。やっと名前が呼ばれ席についてほっとしたものの、店内は酸化した油の匂いが漂っている。ファミレス特有のなんともいえない独特の匂いに、ちょっとげんなりしてしまった。
長時間立ちっぱなしで疲れたこともあり、僕はすっかり食欲が失せていたが、あすぴょんさんは「お腹ぺこぺこです」とメニューを眺めている。ちなみにこの店舗は、モバイルオーダー式だ。
「私のスマホで頼んじゃいますね!ホピ沢さん、お飲み物は決まりました?私はドリンクバーにします。ホピ沢さんお酒好きでしたよね?私のことは気にせずに、お酒飲んでくださいね!私あまりお酒飲めないんです」
「……じゃあお言葉に甘えて、ビールをいただきます」
「お食事はどうしましょうか」
「そうですね……まずはおつまみの中から選ぼうかなと思うんですけど……あすぴょんさんはドリアですよね?」
「いえ、ドリアは〆で!私もおつまみが食べたいです。あの……ホピ沢さんや嫌でなければ、シェアしませんか?」
あすぴょんさんの提案に、僕は同意する。するとサイゼリヤヘビーユーザーのあすぴょんさんが、おすすめのおつまみや前菜をピックアップし、オーダーしてくれた。すごく頼もしい。あすぴょんさんはすぐに迷子になったり、チケット発券方法がわからなくなったり、どこか抜けているところがあるのに、ガストのタッチパネルオーダーやサイゼリヤのモバイルオーダーには、長けているようだった。
「あの遅くなってしまいましたが、これ本日のチケット代です」
オーダーしてもらった後、僕はあすぴょんさんにチケット代を渡した。姪にお年玉を渡すために購入したキャラクターのポチ袋に代金を入れたのだが、あすぴょんさんはなかなか受け取ろうとしない。不思議に思っていると、あすぴょんさんは少々困惑した様子でこう言った。
「どうしてホピ沢さんは、私がすみっコぐらしが好きだってご存じなんですか?私……言いましたっけ?言ってませんよね?ホピ沢さんすごい……エスパーなんですね!」
知らねーよ!偶然だよ!