「ホピ沢さんが調べてくださった候補のお店でも全然良いんですけど、私はドリアが食べたいです。あのミートソースの……」
"あのミートソースの……じゃなくて、サイゼリヤのミラノ風ドリアじゃねーか!あと、"ホピ沢さんが調べてくださった候補のお店でも全然良いんですけど"って言ってるけど、全然良くねーだろ!私はドリアが食べたいですって主張しまくってるだろ!
「えっと……あすぴょんさんが食べたいというミートソースのドリアは、サイゼリヤのドリアですか?」
聞くまでもないと思うが、一応確認のため僕は尋ねた。もちろんあすぴょんさんは何の躊躇いもなく、「そうです。サイゼリヤです」と即答。誤魔化しようがないくらいにはっきりと断言された僕は、どう反応して良いかわからず頬が引き攣った。
予め言っておくが、サイゼリヤは何も悪くないし、罪もない。ただ36歳の女性が、マッチングアプリの席にサイゼリヤを希望することが、どうしても不可解だった。何も高級なレストランが適切だと言っているのではなく、もう少し落ち着いた雰囲気の飲食店が良いのではないかと思う。ファミレスは、誰でもウェルカム。誰でもウェルカムだからこそ、雰囲気には期待してはいけない。
しかも休日のサイゼリヤは、想像せずとも大混雑しているのが目に浮かぶ。あのミートソースのドリアを食べるために、長時間お店の前に並ぶのだろうか。 そしてあすぴょんさんには、その覚悟があるのだろうか。まさか簡単に入店できると思ってないよな?
「ここから一番近いサイゼリヤは徒歩で10分くらいだそうですが、行ってみますか?」
「はい!」
無邪気な返事に複雑な思いを抱えながら、僕とあすぴょんさんはサイゼリヤに向かった。
……当たり前だが、お店の前は人で溢れかえっていた。ウェイティングリストにはびっしりと入店待ちのお客さんの名前が書かれてある。当然、スムーズに入店することはできなかった。
「すごく混んでますね……入れると思ったんですけど……」
入れると思った?なんでだよ!休日のターミナル駅のファミレス!入れるわけねーだろ!