マッチングアプリの初回デートの場所が、ドトール……?
切符売り場付近に立つ僕とあすぴょんさんは、しばしの間お互いを見つめていた。僕はあすぴょんさんの提案に愕然として言葉が出てこなかったし、あすぴょんさんは不思議そうな顔をしていた。 まるで、ドトールの何が問題なのだろう、と言わんばかりの表情。きょとんとした様子が、素でドトールと言っているのだと知らしめる。
いやドトールには、何の問題もないのだ。
誤解を招きたくないのではっきり言っておくが、僕はドトールが好きだ。最近はいつ行っても満席なので、利用する機会がめっきり減ってしまったが、かつて食べたミラノサンド系はまた食べたいなと思う。ちなみに自宅では、よくドトールのアイスコーヒーを飲んでいる。
「ドトール……何か問題ありましたか?もしかしてお嫌いですか?」
もう一度言う、ドトールには何の問題もないし嫌いではない。 驚いて口元が重くなってしまったのは、マッチングアプリの初回デートの場に、あすぴょんさんが何の躊躇いもなくドトールをチョイスしたからだ。ただただあすぴょんさんの選択に、驚愕している。
何も別におしゃれなカフェや、高級ホテルのラウンジを求めているわけではない。だが普通、こういう婚活のデート的な時は、特に初回は、チェーン店は避けるものじゃないのか?ガヤガヤとした喧騒は極力避けて、少しでも落ち着い空間で、お互いのことを話そうと思わないのか?
僕の中のドトールのイメージは、サラリーマンや高齢者の溜まり場だ。
「いえ、ドトール好きですよ。ぜひ行きましょう。ドトールの場所はわかりますか?」
「えっと……確か……あれ……どこだったかな……」
「地図アプリで検索しますね」
本当にあすぴょんさんは、大宮駅周辺のドトールが御用達なのか?御用達のカフェまでの行き方がわからないなんて、とてつもなく不可解だ。僕は地図アプリでドトールの場所を調べ、不安そうに尋ねてきたあすぴょんさんを案内した。
「私ドトールのアイスココアが好きなんです。クリームが乗っていて美味しいんです」
「見たことあります。すごく美味しそうですね」
あすぴょんさんの歩幅に合わせて歩きながら、僕は気持ちを前向きにしてみた。すると、もうどこでも良くなってきた。かしこまったカフェよりも、肩の力を抜いて過ごせる。コーヒーも美味しい。何より、あすぴょんさんがドトールを望んでいるのだ、僕も特にこだわりないし、場所は何でもいいか。むしろおしゃれなカフェじゃないとやだ!チェーンとか無理!と言われるより、全然いい。
だが一つ、僕は懸念があった。
休日のお昼のドトール……座れるのか……?席は空いてないのでは……?