唐突に始まったサリーさんの自分語りは止まらない。
「"学童指導員はただ子供と遊ぶだけでしょう、楽しそう"、なんて結構言われたりするんです。私も働くまではそう思ってました。でも現実は大変で。例えば小1の子に通用していたことが、成長した小6には一切通用しない。大人の言う事を聞かない子もいる。一丁前に生意気なこと言うし、むかつくんですよ」
文字に起こすと素面のように思える。しかしサリーさんの口調は、当初のさっぱりとした声音ではなく、舌足らずでゆっくりで甘ったるいものへと急変。 それは完全に酔っ払いの、話し方だった。
サリーさんは、絵に描いたような酔っ払いの姿だった。顔は真っ赤、怪しい呂律、とろんとした目つき。元々お酒に強くないのか、それとも今日は飲みすぎたのか、はたまた今日だけは酔いが回りやすくなっているのか。事情はわからない。だが今わかることは、サリーさんの飲酒を止める事。僕は機械的にマッコリグラスに手を伸ばすサリーさんを、やんわりと制止した。
「なんでですか?もっと飲みましょうよ。全っ然足りない!」
「今日はこの辺にしときましょう。お水頼みますね」
「やだ、もう少し飲みたいです」
そう言ってサリーさんは、店員さんに手を上げる。
また脇毛……!
サリーさんの注文を遮ることが僕の務めだと理解していても、脇毛にビビってしまい、阻止するよりも先に目を伏せてしまった。その所為で、再びテーブルに生マッコリが運ばれてくる。
「また乾杯しましょう!何度も乾杯するのが韓国の文化なんですよ」
「サリーさん、これ以上は飲まない方がいいです」
「かんぱーい」
立て続けに飲んでもなお物足りないサリーさんは、反対する僕を振り切ってぐびっと生マッコリを飲んだ。行くところまで行った酔っ払いの言動は、もう誰にも止められない。サリーさんの弁舌は止まる事を知らず、仕事の愚痴は延々と続いた。