サリーさんがお手洗いに行っている間、僕は、店員さんがカムジャタン(じゃがいもと豚肉の鍋)のしめの炒飯を作ってくれている工程を眺めていた。日本の炒飯と違い、お米を炒めるのではなく、鍋の底で焼くスタイル。おこげができて、とても美味しそうだった。
「マッコリといえば、チヂミ!韓国では雨の日に、マッコリとチヂミを食べるんですよ」
炒飯を食べたらお開きかな……と思った瞬間、分厚いチヂミが運ばれてきた。このお店に来たら、サリーさんは必ずチヂミを食べるらしい。ちなみに今日は、雨の日ではない。
種類豊富な韓国系のお通し、スンデ、チャプチェ、カムジャタン、チヂミ……などを食べてきたが、正直お腹がいっぱいだった。しかしサリーさんのご好意を無碍にはできず、僕は箸を止めずに料理を口に運ぶ。
「ホピ沢さんは、研究職なんですよね?どういったお仕事なんですか?」
なんてことない質問だったが、僕はサリーさんの口調に妙な違和感を感じた。何か、おかしい。サリーさんの語気はなんだかふわふわしていて、不安定だ。とりあえず返答しようと顔を上げるも、サリーさんは僕を遮って語り始めた。
「私は学童で働いてるって言いましたよね?実は私、大学受験に失敗したんです。行きたくない大学通って。親に言われて仕方なく、教員免許取ったんです。教員とか全然興味なかったし、教育実習を経験して、絶対に教育現場では働きたくないと思ったんです。でも結局就活に失敗して。何が何でも地元に帰りたくなかった。地元の人に、東京で負けて帰ってきたと思われたくなかったんです。とにかく東京にいたいから、仕事を選ばずにバイトでもなんでもしようって。その時に見つけたのが、学童指導員だったんです」
サリーさんは……酔っ払っているようだった。