脇……毛……?
「すいませーん。注文いいですか?生マッコリお願いします」
「……」
「ホピ沢さん、他に何か頼みますか?」
「いえ……大丈夫です……」
僕は前触れもなく襲ってきた衝撃に、眼球が飛び出るくらい仰天した。
注文するために手を上げたサリーさんの脇から……脇毛が見えたのだ。
脇毛。
サリーさんが着用している半袖ブラウスは、少々袖口が広い作りになっている。そのため手を上げると、脇袖が開いて脇が見えてしまうのだ。
おい、サリー。脇毛……見えてる……。
僕は咄嗟に、メニュー表に視線を落とした。とりあえず韓国語の料理名に興味があるふりをしていたが、そんなものは視界を掠めることなく流れていく。見てはいけないものを見てしまったことで、頭の中は混乱し、どうしようもなく動揺していた。想像以上に存在感を放つ黒い塊に思考を支配されてしまった僕は、サリーさんを直視できなかった。
おい、サリー。なんで脇毛……処理してないんだ……?
正直、かなり困惑している。女性を敵に回すかもしれないが、僕は、女性は脇毛を処理するものだと思っている。女性は脇毛がない状態が当たり前。脇毛が生えたら剃るか抜くか脱毛に行く。僕自身が脱毛していることもあり、脇毛に対して、通常よりも強い抵抗感があることは認める。とはいえ、さすがに脇毛ボーボーは許容範囲を超えていると思う。男性の脇毛を目にするのも微妙なのに、"ないのが当然"と思っていた女性の脇毛を目の当たりにして、僕は震えていた。
いや、サリーさんが脇毛を処理しないスタンスなのなら、それはそれでいい。脇毛との向き合い方は、本人の自由だ。
だが、サリー。何故脇毛が生えている状態で、脇が見える洋服を選んだ?
「この生マッコリ、とても美味しいですね。ごくごく飲めちゃいますね」
「よかったです、ホピ沢さんが気に入ってくれて。ドラマみたいに、乾杯しましょう」
ハンアリという名の大きな酒器に入った生マッコリを、柄杓で掬って器に注いでくれたサリーさん。茶碗のような大きさのマッコリカップを軽く合わせて、サリーさんと乾杯をした。
正常な判断ができないくらい狼狽えていた僕は、生マッコリをぐびぐび飲んだ。脳内にこびり付いたサリーさんの脇毛をなんとか忘れようと、死に物狂いになっていたのだ。
ちなみにサリーさんは、僕の生マッコリの飲みっぷりをすごく褒めてくれた。サリーさんの前では、とにかく韓国文化にどっぷり浸るのが正解のようだ。