"お前とは金輪際会うことはない"と、サリーさんに見限られている今、何をどう足掻いても無残な結果に終わるのだろう。そう思うと思考も口も重くなり、一向に会話が思い浮かばなかった。一方のサリーさんからも、話題を振ってきそうな気配を感じない。かろうじてやたらと騒がしいK-POPのBGMが、僕とサリーさんの間を繋いでいる状況だった。
「あ、そういえばこれ、韓国ドラマで主人公が食べているのを見たことがあります。どんな味がするのか気になっていたんですよ」
サリーさんが注文してくれたスンデ(豚の腸詰)がテーブルに到着した時、僕は以前観た韓国ドラマを思い出した。ドラマでは主人公が焼酎と一緒にスンデをやけ食いしていたのだが、赤黒く少々不気味な見た目のスンデは、一体どんな味がするのだろうと気になっていたのだ。
「え!?本当ですか!?スンデのこと知ってるんですか?」
「名前は今初めて知りましたけど、ドラマでは何度か見たことがあります」
「ホピ沢さん韓国ドラマお好きなんですか?ちなみに何ていうドラマですか?」
「好きと言うか……母や妹が観ているのを横で眺めていたら、いつの間にか観ていたという感じですね。スンデが出てきたドラマは、確かXXだったと思います」
「私も観ました!面白いですよね!」
まさかのスンデが救世主となり、そこからのサリーさんは一変。ぱっと光が差したように表情が明るくなり、一気に饒舌になった。好きなK-POP、好きなアイドル、好きな韓国俳優、好きな韓国料理……息つく間も無くノンストップで高速なマシンガントークを繰り広げる。僕は最近の韓国ドラマは観ていないのでさっぱりだが、それでも一昔前のドラマで得た知識を駆使して、必死にサリーさんの弁舌に食らいついた。
それが功を奏したのかはわからない。しかしサリーさんは、声を上げて楽しそうに笑ってくれた。
「そのドラマ古すぎ!久々に思い出しました」
「学生時代は◆◆というドラマに憧れて、新大久保のカフェに通い詰めました」
「え、ビデオで観た!?確かにそのドラマは20年以上前のですけど、ビデオじゃなくて普通にDVD出てましたよね?ビデオとか懐かしすぎる」
「ホピ沢さん、もう少しアップデートしないとだめですよ〜。おすすめのドラマとK-POPを紹介しますね!」
と、終始笑顔。手応えを感じて調子に乗った僕は、かつて妹が好きだったアイドルグループの曲の振り付けを、記憶を頼りに披露してみせた。するとサリーさんは大爆笑。「違いますって!こうですよ」と、歌いながらお手本を見せてくれた。決して愛想笑いではない……と思いたい。
「意外とホピ沢さんは、韓国ドラマ観てるんですね。特に**ドラマを観てるとは思いませんでした」
「昔のドラマの話しかできなくて、すみません」
「そんなことないです!ホピ沢さんと話してたら、また昔のドラマ観てみようかな〜って思いましたもん」
韓国ドラマやK-POP好きの母と妹には、本当に感謝しかない。あんなに重苦しかった空気が一掃されて、今は笑いっぱなしだ。心なしかサリーさんも、にこにこしている。これを機に、自発的に最近の韓国ドラマを観てみようと思う。
ちなみに肝心のスンデの味だが……よくわからない食感だった。