2024年9月24日火曜日

40代男がマッチングアプリをやってみた 51

とりあえず入店して店員さんに謝ろうと思った時、一人の女性がこちらに向かって走ってくるのが見えた。おそらくサリーさんだ。しかしサリーさんと思しき女性は、僕の前で足を止めることなく横を通り過ぎる。そして僕が立っている場所から少し離れた先で、立ち止まった。
 

あれ?サリーさんじゃないのか?いや……この状況はどう考えてもサリーさんだよな?
 
てっきり超ダッシュしてきた女性をサリーさんだと思い込んでいた僕は、あっさり素通りされたことに困惑した。失礼にならないように、僕に背を向ける形で立つ女性をちらっとだけ見る。まるでここに佇む僕の姿など全く眼中にないという感じの女性は、鞄から手鏡を取り出して手櫛で髪を整えていた。僕はこっそり、サリーさんのプロフィール写真と目の前の女性を見比べる。そしてやはり女性は、サリーさんだと確信した。
 
「あの、すみません。サリーさんですか?」 
「え!?」
 
驚かせないように声をかけたつもりだったが、女性は過剰にビクっとした。近づいた僕から急いで距離を取って、訝しげな視線を送ってくる。それはまるで、不審者を睨みつけるかのような目つきだった。突然見知らぬ中年男性に話しかけられて不快感を抱く女性の気持ちを理解しつつも、その反応はなかなか辛いものがある。自分が汚らわしいゴミのような存在に感じた。

「あの……ホピ沢です」
「あ、あ、あー……サリーです」
 
サリーさんが僕をホピ沢だと認識した瞬間、彼女の声と顔がみるみるうちに曇る。"あ、あ、あー……"と、サリーさんが思わず漏らした感嘆詞に、彼女の失望が詰められていた気がした。だけどそれもほんの数秒、すぐに笑顔に切り替わる。
 
嫌でも悟った。感嘆詞もそうだが、サリーさんのその暗い表情も、とても見て見ぬふりはできなかった。サリーさんから滲み出るオーラが、がっかりというか、絶望というか、隠しきれない拒絶感……そんな感じだったのだ。ああ、これはもうサリーさんの中で、僕は論外。亡き者になったのだなと受け止めた。
 
ちなみに僕はプロフィール写真を一切加工していないので、写真と実物にほぼ差はないと思う。だからサリーさんは、僕の外見を承知で来てくれたはずだ。だがサリーさんは、見るからに落胆している。一応自分なりに最高の一枚をプロフィール写真に選んだつもりだが、結局根本的にアレなので、写真にどうにもできない不細工が漂っていたことは否めない。しかし……写真以上に実物の僕は醜かったのだろうか?惨めすぎる。
 
「遅れてすみません。わざわざ暑い中待ってなくても、先に入ってくださってよかったのに」
「すみません、予約時の名前がわからなくて……」
「名前……あ、そっかそうでした。ごめんなさい。そうですよね、わからないですよね。私いつも予約の時は、推しの苗字を使ってるんです」
「推し……?」
「はい、推しです」

おい、サリー!お前の推しの苗字なんて、そんなん知るわけねーだろ!

中途半端な希望を持ちたくないから、早く家に帰りたい。お前はお呼びじゃねーんだよと突きつけられている空気に居心地の悪い思いをしながら、僕はサリーさんの後に続いて入店した。
 
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