待ち合わせ時間の19時を過ぎても、サリーさんらしき女性は現れなかった。
おい、この感じ何回目だよ!何で毎回毎回、時間通りに来ないんだよ!
腕時計を見た僕は、思わずため息を漏らした。そして脳裏に過るのは、二つのパターン。ぴよさんのようにドタキャンからのブロックなのか、タケウチさんのように遅れてくるのか……。それを確かめるために、マッチングアプリを開くのが憂鬱だった。
一番最悪な結果を想像しておけば、心のダメージは少ない。だから僕は、サリーさんにはブロックされたのだと考えながら、重たい指先でマッチングアプリを確認した。
するとまさにその瞬間、サリーさんからメッセージが届いたという通知が来た。
"ホピ沢さん、申し訳ありません。仕事が長引いてしまい、少し遅れます。今、新大久保の駅に着いたので、もう少しで到着すると思います。先にお店に入っててください"
おい、サリー!遅れるとわかっているなら、もう少し早めに連絡しろよ! 今新大久保の駅に着いた?それなら電車に乗る前に連絡できたんじゃないか?
時刻は19時10分。サリーさんの到着は、早くても19時20分くらいになるだろう。
仕事で遅れる……仕事だから仕方がないのかもしれない。しかし遅刻するとわかった時点で連絡をしなかったサリーさんの判断に、若干もやもやした。だが、すぐに気持ちを切り替える。ドタキャンやブロックされたわけではない、サリーさんは今急いでこちらに向かっているのだから、前向きに捉えようと思った。
だが先にお店に入っていてと言われても……今回お店の予約をしてくれたのはサリーさんだ。僕は予約時に、サリーさんが何と名乗って予約したのか、知らない。名前を名乗らずに、「19時に二名で予約した者なんですが……」で通用するのか?……はずがない。
サリーさんが予約時に名乗った名前は?名乗らずに入店できるのか?先に店内で待ち人を待つというパターンもあるが、全員揃って入店するのが好ましいのではないか? そもそもお店側には遅れる旨を伝えたのか?
色々な疑問が沸いてくる。僕は急いでサリーさんに質問をした。だが返信はない。サリーさんはスマホをチェックできないくらい、慌ててこちらに向かってきてくれているのだろう。しかし、お店側に迷惑をかけているかもしれないという申し訳なさと、サリーお前遅刻すんなやという苛立ちで、僕の頭は沸騰しそうだった。
まず今僕がするべきことは、お店側に事情を説明することだ。予約時の名前がわからなくても、まずは店員さんに謝ろうと思った。入店しようと、ドアノブに手をかける。すると一人の女性が、こちらに向かって走ってくるのが見えた。