2024年9月4日水曜日

40代男がマッチングアプリをやってみた 43

おい、タケウチ!お前、いいかげんにしろよ!僕の魂を抜き取るようなことばかりしてくんなよ!


「まあ……今日のところは許してあげます。でも次は、もう少し胸キュンの言葉をお願いしますね」
「はい……(小声)」
「そういえば歴代の元カレにも、明るくて元気だねってよく言われました!東京の人なのに大阪人みたいにパワフルだなとも言われたっけ。あ、これを言ってきた元カレは大阪ボーイなんですけど、何人目の元カレだったかな?10人目?」
「そ、そうですか……」
「ホピ沢さんは、サバサバ女は好きですか?」
「サバサバにも色々種類があるので、一概には……」
 「もうホピ沢さん、もっとガンガンこないと!私結構サバサバ言っちゃうタイプなんで、基本ひ弱でグズグズした感じの男はこっちからお断りなんですけど。ホピ沢さんは全然アリです。歴代の元カレたちは皆、ズバズバ言う私を好きだって言ってくれました」
「……
「ちなみにその大阪ボーイとの出会いは、別のマッチングアプリだったんですけど……」
「……
「そもそも私がマッチングアプリを始めたきっかけは、私に50万も貢がせた元カレAの所為なんですけど……」
「……
「元カレAとは大学生の頃バイト先が一緒で、その時私は元カレBと付き合ってたんですけど、あ、元カレBというのは……」 
「……」
「そうだった。元カレBのことを話す前に、元カレCのことを説明しておきますね。彼は……」
「……」
 
信じられないと思うが、タケウチさんはこの調子で、歴代の元彼について語り始めたのだ。それも事細かく、まるで一字一句、全場面を覚えているかのように鮮明に。
 
しかもあけすけに、性行為の話も交えてくる。さらには、歴代の元彼一人一人、ベッドの中の彼らの振る舞いについて、批評をした。中にはボロクソに酷評されている元彼もいた。聞きたくもない話を延々と聞かされ、この世のものとは思えないほどの地獄の時間を味わった。 タケウチさんの口を、ミッフィーにしてやりたかった。
 
タケウチさんは何を話したいのか決めずに思いつきで話すから、次々と会話が脱線したり、あちこちに飛んだり、結論がなく散っていったり、終わったと思っていたのにまた広げて話題にする。つまりこの自分語りを真剣に聞こうとすると、身が持たないというわけだ。
 
その上、話を聞いているふりをして適当に相槌を打ってた僕を、タケウチさんは絶対に見逃さない。
 
「ホピ沢さん、私の話全然聞いてないでしょう?」
 
タケウチさんは、険しい顔で詰め寄ってきた。慌てて「聞いていますよ」と誤魔化すが、当然の如くタケウチさんには通用しない。「本当ですか?じゃあ今の元カレは何人目でした?」と答え合わせをしようとする。
 
おい、タケウチ!何人目の元彼だろうがなんだろうが、こっちは知ったこっちゃねーんだよ!
 
話半分で受け流していた僕は、返答に窮してしまう。すると「やっぱり聞いてないじゃん!」と咎められ、話は巻き戻し。僕がうる覚えのところから、再生されるのだ。ちなみにトイレのために席を立っても、中断したところから話が再開するシステムになっていた。
 
「私の経験上、男って結構単純だなって思います。なんで感じたかと言うと、元カレRが……」
 
女性の話を聞くのが、こんなにも苦痛で過酷だとは思わなかった。あまりの辛さに僕は泣きそうになった。いや、心では号泣していた。食後酒をがぶ飲みして紛らわそうとしても、擦り切れた気持ちはどうにもならないのだ。
 
結局この厳しい苦行には、お店を退店するまで拘束された。

 
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