2024年9月2日月曜日

40代男がマッチングアプリをやってみた 42

「ねえホピ沢さん、実際私のことどう思ってますか?」
 
店長(タケウチさんのいとこ)がご好意でご馳走してくれた、赤ワインのボトルを傾けるタケウチさんは、意味深な笑みを浮かべていた。
 

おい、タケウチ!お前飲み過ぎだよ!酔っ払ってんのか!合コンみたいな質問すんじゃねーよ!
 
そう一蹴したかったが、とても笑い飛ばせる空気ではなかった。タケウチさんの口調は砕けていたとはいえ、表情は真面目そのもの。飲酒したとは思えぬタケウチさんの眼力に見据えられ、僕の頭の中はかつてないほど混乱した。タケウチさんはシラフのような顔色で、酔っ払いみたいな問いを発する。なんてタチが悪いんだろうと思った。
 
「私、マッチングアプリで出会った男性には、必ず聞くようにしてるんです。男性にはわからないと思いますが、女性側は一生懸命デートの準備してるんですよ?せっかく頑張ってお洒落してきたんだから、どう思われてるか気になるじゃないですか。正直に言ってくださいね?」
 
タケウチさんは臆することなく、核心を突いてくる。 この状況において、僕がかけるべき一番適切な言葉と、僕が振る舞うべき正しい対応を知りたかった。だけど……わからない。
 
「私のこと、どう思ってますか?ぶっちゃけ、アリ?ナシ?」
 
ど、どう思われてるかと聞かれても……。
 
どうも思っていない。ナシだ。

だがもちろんこの場で、本音は口にしない。いやできない。面と向かって他人に拒絶の言葉を投げるのは、だめだ。傷つき傷つけ合う雰囲気には、絶対になりたくなかった。お互い後味が悪くなる状況は、なんとしてでも避けたい。
 
しかし……タケウチさんは自分が切り捨てられる可能性を一ミリも考えていないから、こうやって尋ねられるのだろう。強い自信の表れだ。
 
「タケウチさん、お酒強いですね。でもこのワイン、少し度数が高いですね。そろそろお水貰いましょうか」
 
僕は極力不自然にならないようにそう言って、店員さんに目配せをした。タケウチさんは思い出したように、「そういえばお水欲しいです」と頷く。「ホピ沢さん、気配り上手!飲み会の幹事とか超似合いそうですね!」と、タケウチさんは無駄にハイテンション気味に手を叩いて笑っていた。もしかしたら顔に出ないだけで、実際は結構酔っているのかもしれない。
 
店員さんがお水を注いでくださっている間、会話が途切れた。しめた、ここで帰ってやる。既に入店から2時間ほど経過し、料理は全て食べ終えデザートまで完走していた。ここらで帰宅を匂わせるのは、自然な流れだと思う。僕はお水を飲み干し、腕時計を見るふりをして……愕然とした。
 
なんと店長(タケウチさんのいとこ)のサービスで、食後酒とチョコレートが運ばれてきたのだ。

「じゃあさっきの話に戻りますね。ホピ沢さん、全然私のこと聞いてくれないじゃないですか。私ばっかりホピ沢さんに質問してる感じがして、さびしいです。で、どう思ってます?」

おい、店長!絶妙なタイミングでおもてなしを発揮しないでくれよ!
 
閉店時間までお店に滞在する許可を貰ったからか、タケウチさんは慌てることなくどっしりと構えて、チョコレートを摘んでいる。絶対に口を割らせるまで帰らせないぞという、タケウチさんの執念を感じた。有無を言わせないタケウチさんの物言いは、とにかく圧がある。 
 
僕は観念して、口を開いた。

「タケウチさんはお話上手ですし、にこにこと美味しそうに食事をされていたので、楽しい時間を過ごせました」
「そういうことじゃないです!ホピ沢さん、全然女心わかってない!」
「ごめんなさい……」
「だから私のこと!どう思ってますか!」
「えっと……タケウチさんはすごく明るくて元気があって、楽しいなと感じました……」
 「だからぁ、そうじゃなくて!」
 
大人の女性に向けて言うべき褒め言葉ではないことは、もちろんわかっている。 だが本心を偽って言うには、限界があった。僕はタケウチさんのことを、プラスどころかマイナスに感じているのだ。これ以上のタケウチさんを賛辞する言葉は、思いつかなかった。
 
「こういう時にお世辞でも、可愛いとか綺麗とか素敵とか……そういう褒め言葉の一つや二つ言えないとだめですよ?」 
「……勉強になります」
「じゃあ次はぜひ、実践してくださいね?」
「はい……(小声)」
「ところでホピ沢さんお髭ないですけど、脱毛されてるんですか?え、美意識高い!私も美容には敏感で、お手入れは特に時間かけてるんですよ。私の肌、触ってもいいですよ?」
 
おい、タケウチ!美容に敏感と言うが、ぽっちゃり極めすぎだろ!
 
今日一番のとびきりの笑顔を浮かべるタケウチさんは、僕の指をタケウチさんの頬へと導こうとした。当然、全力で拒否だ。無理、触りたくない。しかし、僕の触るわけねーだろ!という強い嫌悪感は伝わらず、タケウチさんには僕が恥ずかしがっているように見えたらしい。「ホピ沢さんかわいい〜」とケタケタ笑われた。
 
おい、タケウチ!お前、いいかげんにしろよ!僕の魂を抜き取るようなことばかりしてくんなよ!

 
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