2024年8月30日金曜日

40代男がマッチングアプリをやってみた 41

「都内に実家があるのに、わざわざ家を出る意味ありますか?一人だと全部自分でやらないといけないですが、家に帰れば何でも揃ってますしね。母がやってくれますし」

おい、タケウチ!お前が誰よりも一番お母さんに頼りっきりで、実家に依存しまくってるじゃねーか!
 

「あ、ホピ沢さ〜ん。今、絶対私は全然家のことできないって思いましたよね?まあ否定はしませんけど。実際しないですし。なんか母が家事をやらせてくれないんですよ。私がキッチン使おうとすると、母は途端に不機嫌になるんです」

タケウチさんの話によると、専業主婦のタケウチさんのお母さんは、家のことを全て自分でやらないと気が済まないらしい。 料理や洗濯、そして掃除などの家事に、他者が介入するのが許せないそうだ。"キッチンは主婦の城"という言葉を聞いたことはあるが、衣食住を共にする家族の使用にまでめくじらを立てるのか。変わったお母さんだなと感じた。
 
「私がカップラーメンを作ろうとしたり、洗濯機を使おうとするだけで、怒るんですよ。キッチンに入るな!洗濯機使うな!って。良かれと思ってお皿を洗っても、嫌がられて洗い直しされます。私が料理しようかなーなんて言ったら、母は発狂します」
「お母様と一緒に並んで料理をしたりとか……ないんですか?」 
「ないですよ、一度も。ありえないシチュエーションですね。実の娘が料理器具を使うことですら、ブチギレですから」
「ブチギレですか……」
ホピ沢さんはお母様と料理するんですか?」
「そうですね。今も実家に帰ったら、母の助手をしたりします」
「すごーい。うちでは考えられない!」
「……」
「そういうわけで私は、極力家のことはしないようにしているんです」 
 
何もしないっていうのも楽じゃないんですよ?と、タケウチさんはあっけらかんと言う。ちなみに最後にタケウチさんが実家で料理をしたのは、大学生の時。元彼のために、お弁当を作ったそうだ。しかしキッチンの使用許可をなんとかもらっても、結局卵を溶くことしか許してもらえず、後は全て母親が作ったらしい。タケウチさんは眺めることしか、できなかったそうだ。
 
母親が気難しいタイプ故、なす術がなく家のことはノータッチ。タケウチさんが家事をしないできない理由が、よくわかった。だが同時に、タケウチさんの実家が、かなり特殊だということも理解した。
 
「でも私、やればできる子なんで!結婚したら普通に家のことできますから。ご心配なく!」 
 
おい、タケウチ!普段家事をしてないヤツが何言ってんだよ。そう簡単にできると思うなよ!

全く説得力がないタケウチさんの言葉を微笑みで受け流しながら、僕はひたすら食べることに専念していた。タケウチさんとは、今回を最初で最後にしたい。いや、絶対にする。そうと決意したら、彼女の話を深掘りする理由はない。メイン料理に勢いよく食らいつき、平らげた。あとはタケウチさんの調子に合わせて相槌を打ち、デザートを乗り切れば、エンディングを迎えられるだろう。
 
そんなことを考えていた時だった。

「ねえホピ沢さん、実際私のことどう思ってますか?」
 
店長(タケウチさんのいとこ)がご好意でご馳走してくれた、赤ワインのボトルを傾けるタケウチさんは、意味深な笑みを浮かべていた。
 
 にほんブログ村 恋愛ブログ 婚活・結婚活動(本人)へ