2024年9月6日金曜日

40代男がマッチングアプリをやってみた 44

「申し訳ないんだけど、そろそろクローズだから……」
「やだ、もうそんな時間?時間経つの早すぎ、あっという間!ね、ホピ沢さん」
「ええ……」


歴代の元彼達の話を一から十までどころか……一から千までたっぷり聞かされた僕は、タケウチさんに生気を吸われてげっそりしていたと思う。疲労感と倦怠感でいっぱいだった。
 
ちなみにタケウチさんは、20人ほどの男性を、"歴代の元カレ" として登場させた。本当に登場人物全員が、タケウチさんの元彼だったのかもしれないが、中には「これって本当に付き合ってると言えるのか?」と、首を傾げる話もあった。
 
たった2、3回会っただけで、"その男性と付き合っている"ことにしているーーそう感じた。まあ実際今日、初対面の僕を彼氏として店長(タケウチさんのいとこ)に紹介した罪があるので……限りなくノンフィクションに近いフィクション。そういうストーリーも、あったかもしれない。
 
腕時計を見ると、時刻は23時を回っていた。結局お店には、約6時間滞在していたらしい。その内の4時間は、タケウチさんの独壇場。いや4時間だけではない、今日は最初から最後まで彼女の一人舞台だった。よく僕はこの地獄の時間を耐え抜いたなと、心の中で自分を褒め称えた。
 
「これお願いしますね。ホピ沢さん」 
「はい」
「テーブル会計なんで、あとでまた来ます」
 
反射的に店長に差し出された伝票を受け取った後、ふと違和感を感じた。当然のように僕に伝票を渡してきた店長に、え……!?と思う。こういった男女の食事の席では、伝票を男性に渡すのがお店側の配慮やマナーなのかもしれないが……テーブルにスペースがあるのだから、真ん中に置いてくれてもいいのではないだろうか。僕が利用する飲食店は、伝票は手渡しせずに、テーブルに置いてくれるお店が多いので、些か驚いた。

「ホピ沢さん、ご馳走になりまーす。私、お手洗い行ってきますね」
 
おい、タケウチ!"ご馳走になりまーす"、じゃねえよ!何故このタイミングで、トイレに行くんだよ!
 
男女間の支払い方法についてさまざまな意見があると思うが、あくまで僕自身は、女性から割り勘などの要望を言われない限り、基本的に自分が全額支払う考えだ。だから今もタケウチさんには求めず、僕が会計するつもりだった。
 
だけど、タケウチ!許可なく勝手に奢られようとすんなよ!
 
タケウチさんは、"こういう時は男性側が支払うもの"、という固定観念があるのだろう。実際に先ほどの"歴代の元カレ"の話の中で、タケウチさんは「女性に奢らない男はクソ」と断言していた。それはそれでいい、否定はしない。
 
だが例え支払う気がなくても、財布を出す素振りくらいはして欲しい。お礼も言わずに、奢られるのが当たり前な感じを出されるのは、複雑だ。その上、まるで図ったかのように、伝票を貰った瞬間に席を立つなど言語道断。
 
僕の意見が正しいと言いたいわけではない。タケウチさんの対応が悪いと言いたいわけではない。だが僕だったら、自分が奢ってもらえる立場になった時、タケウチさんのようにそんなに堂々と、"ごちになりまーす"と振る舞えない。伝票が来たタイミングに合わせて、トイレに立とうとも思わない。申し訳ないと思いながら、感謝の気持ちを伝える。
 
「またごはん行きましょうね。今度はフレンチがいいです」

おい、タケウチ!せめてご馳走様でしたって言ってくれよ!
 
お会計を済ませて退店した僕の足は、自然と駅に向かっていた。タケウチさんは歩きながら隣で饒舌に何かを話していたが、内容は覚えていない。僕は早く京浜東北線に乗りたくて、早歩きで改札を目指していた。
 
「タケウチさんはどの電車ですか?終電はまだ大丈夫ですか?」 
「この電車ですね。終電も大丈夫です」 
「そうですか。では今日はありがとうございました。気をつけて帰ってくだ……」
「この後どうします?」
「は?」
 
聞き間違いかと思った。
 
「私まだ、帰りたくないです。もうちょっと、ホピ沢さんとお話ししたいです」 

おい、タケウチ……?


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