「ホピ沢さんはどこに住んでるんですか?」
「蒲田です。タケウチさんは?」
「か……蒲田ぁ!?」
タケウチさんは露骨に顔を歪めた。
「蒲田って……あの蒲田ですよね?東京のスラム街……」
蒲田は、東京のスラム街。
ひどい言われようだ。確かに昔から蒲田はディープなイメージが強く、曰く付きの地域だと指を指されても、仕方がないのかもしれない。薄暗い雰囲気を持つ蒲田を否定はしないが、某テレビの所為でより、"蒲田は地獄"という印象を強く付けられてしまったと思う。蒲田民としては、とても複雑だ。
だがこの手の反応には慣れているので、僕は慌てない。
嫌悪感を隠すことなく露わにするタケウチさんに、僕は苦笑しながら「そうです。あの蒲田です」と頷いた。その瞬間、タケウチの口元が引き攣る。彼女からすっと一線を引かれた気配を感じた僕は、早食いせずとも手っ取り早く幻滅されたんだな、とほっとした。
「蒲田は23区だけど東京の端っこだし、隣川崎だし……。すごい汚くて、酔っ払いが朝まで寝ているとか、治安が悪いって聞きます」
「そう言われてますね」
「なんでそんなとこに住んでるんですか?」
「実家が蒲田なんです。蒲田生まれ、蒲田育ち、蒲田在住。蒲田大好きなんです」
これでもかと蒲田愛をアピールすると、ますますタケウチさんの表情が強張る。清々しいくらい失礼なことを言う人だなと感心しつつ、怒りはしないが地元を貶されて気分は良くなかった。
だいたい皆、勘違いがすぎる。蒲田全体がスラム街だとでも?駅から10分も歩けば閑静な住宅地。蒲田駅の目と鼻の先にある飲み屋街が、少しだけ賑やかなだけだ。そもそも、何も蒲田に限った話ではなく、居酒屋が多い駅には、お酒の飲み過ぎで言動に不安を覚える人はたくさんいるし、酔っ払いが転がっていることもザラ。今、僕が利用したターミナル駅の繁華街の方が、よっぽど治安が悪く危険だと思う。
"蒲田は23区だけど東京の端っこだし、隣川崎だし……"
東京の端っこで隣川崎のなにが問題なんだよ!蒲田は便利で住みやすいんだよ!
「絶対に都落ちしたくない 」とプロフィールに書いていた、タケウチさんの言葉を思い出す。"蒲田は23区だけど端っこ"と、言い切ったのだ。東京だからどこに住んでもいいというわけではなく、絶対にここに住みたい!という並々ならぬ思いがあるようだ。
タケウチさんが納得する東京のエリアは、どこなのか。おそらく誰もが知っているリッチな地域しか許せないのだろう。きっと実家も、そういう場所にあるに違いない。確かタケウチさんは横浜出身で、小2の時に都内に引っ越してきて、今も実家住まいだと書いてあったな。
「タケウチさんはどこにお住まいなんですか?」
「板橋区です。駅はXXですね」
おい、タケウチ!お前も東京の端っこで隣埼玉じゃねーかよ!