おい、タケウチ!元彼が年収を実際より多く盛っていたとか何とか言ってたが、盛りに盛ってるのはお前じゃねーかよ!
最新の写真加工技術を駆使して、肥満体型を標準体型に仕上げたタケウチさんのプロフィール写真は、本当に疑いようもないくらい完璧だった。デブから普通へーー。間違いない、彼女は本物の加工職人だ。本当に恐れ入った。
しかし……。
盛りすぎ詐欺写真を載せているにも関わらず、平然としていられるタケウチさんの図太さに、僕は怒りを通り越して呆れてしまった。
"ちょっとだけ盛っちゃいました"というレベルであれば、目を瞑る。誰だって少しでも、他人によく見られたい思われたい願望はあるだろう。それがマッチングアプリや婚活となると尚更。僕だって許されるならば、写真を加工してイケおじになりたい。
だが別人級に変身するのはダメだ。普通体型だと思っていた女性が実は肥満だったという事実はなかなか受け入れられないし、悪びれる様子もなく虚偽の写真を掲載し続けている心は悪質だと思う。
困ったな。できればこのまま逃走したい。しかしこの場からBダッシュできるわけもなく、僕はとんずらを図りたい気持ちを抑えて、タケウチさんに話を振った。
「今日も暑いですね。立ち話もあれですし、お店に向かいましょうか」
「はい。ここから歩いて5分くらいなんですけど、外を歩くので汗かいちゃいますね」
「冷たいビールが飲みたくなりますね」
「ね!ぱあっと乾杯しちゃいましょう」
「ええ……」
「私のいとこが、今から行くお店の店長なんですけど、今日のことを話したら、特別にボトルワインを奢ってくれるって言ってました」
「え……っ」
「とっても美味しいんで、たくさん食べましょうね」
肩にフリルがついた白のノースリーブのワンピース、白の厚底のサンダル、白の帽子、そして白のショルダーバック。色味を感じさせない装いだからだろうか。タケウチさんの妙に真っ赤なグロスが、やたらと目について視界がチカチカした。
全身に白を纏うタケウチさんに眩しさを感じながら、僕は重い足取りでお店に向かった。