待ち合わせ時間を5分過ぎた16時50分になっても、タケウチさんらしき女性は現れなかった。
またドタキャンされてしまったのか。もう本当にマッチングアプリは、やめよう。
これ以上心を弄ばれるのは耐えられない。どうせタケウチさんには既にブロックされていて、彼女に連絡を取る術を断たれてしまっているのだろう。僕に会う気がなくなったのなら、事前に断ってほしい。
うなだれながらマッチングアプリを開くと……なんとタケウチさんにはブロックされていなかった。それどころか、彼女からメッセージが来ていた。
"待ち合わせ場所に到着しているのですが、ホピ沢さんどこですか?"
え!?タケウチさんここにいるの!?
すぐにタケウチさんに、僕が立っている場所の目印と僕が着ている洋服の雰囲気を綴って返信をした。というか待ち合わせ場所に到着したと知らせたメッセージに、僕がいる場所や衣服の特徴を書いてたはず。読んでいないのかな……と若干もやっとしながら、辺りを見回す。
すると、僕に向かって駆け寄ってくる、ふくよかな女性が目に入った。
そのふくよかな女性に手を振られたような気がしたが、僕は彼女を一瞥した後、再びタケウチさんらしき女性がいないか周辺を眺め回した。涼しげな目元、白い肌、ポニーテール、ハツラツ、バリバリ営業していそうな雰囲気の女性を必死で探す。いくらここが大混雑しているターミナル駅だとはいえ、ここまでお互いを見つけられないのも不思議だなと思った。僕は間違った待ち合わせ場所にいるのだろうか。
ところで何故か何度も何度も視線を逸らしても、例のふくよかな女性は僕に焦点を合わせて手を振ってくる。さすがに彼女を無視できない距離になってしまった。思わず僕は前後左右を確認した。僕の半径2メートル圏内には、誰も立っていない。なんなんだ?僕が寄りかかっている看板にでも用があるのか?
僕の背中を嫌な汗が伝う。ひどく悪い予感がした。
「ホピ沢さんですか?こんばんは、タケウチです!」
ついに僕の目の前まで迫ってきたふくよかな……いや、肥満の女性は、僕の名前を口にした後、笑顔を浮かべた。