"芸術といえば、東京芸術劇場の近くに、美味しいもつ鍋屋さんがあるんです。ホピ沢さんと行けたら楽しそう♪"
最初のメッセージを除き、これまでタケウチさんから貰ったメッセージの文末の全てが、"ホピ沢さんと行けたら楽しそう♪"で締めくくられている。ここまで言われているのだ、タケウチさんは僕からの誘いを待っているのではないか。再び別の話題を振ったとしても、また必ずタケウチさんの文末は、"ホピ沢さんと行けたら楽しそう♪"、な気がする。
そう思う反面、僕の職業や年収について、何の躊躇いもなく疑惑の目で質問してきたタケウチさんなら、こんなまどろっこしいやり取りせず、ストレートに「一緒にご飯行きましょう」と言ってきそうなものだ。
女心を敏感に汲み取れない僕は、本当に途方に暮れていた。
唸りながらタケウチさんの返信に頭を抱えていると、食事の約束をしていたサリーさんから返事が来た。
"ではX日の土曜日夜はどうでしょうか。今月は土日休みがないので、仕事終わりしか都合がつかないのですが、ディナーでも大丈夫でしょうか?場所は新大久保だとより韓国の雰囲気を味わってもらえるかなと思うのですが、すごく混雑しているので圧倒されるかもしれません。他のエリアにも美味しい韓国料理のお店はたくさんあるので、新大久保以外でも大丈夫です。ホピ沢さんの都合のいいエリアはありますか?"
ここは新大久保一択しかないだろう。新大久保は連日若者達で大混雑しており、歩くのもままならないと聞いたことがある。加えて、公共のトイレが見つかりにくいらしい。飲食店を利用した時に借りれば問題ないが、そうでなければ……そういうことだ。
お腹に不安を抱える僕は、公共のトイレが見つかりにくいという状況に尻込みしてしまうが、サリーさんの好きな韓国料理店が新大久保にあるのだ。トイレが心配などと言ってれない。
僕はサリーさんに"ぜひ新大久保で会いたいです"ということを伝え、無事にX日土曜日の17時に新大久保駅で会うことが決まった。予定が決まってほっとする一方で、ぴよさんの件のようにドタキャンされないことを祈るばかりだ。
そう思っていると、タケウチさんからメッセージが来ていた。"芸術といえば、東京芸術劇場の近くに、美味しいもつ鍋屋さんがあるんです。ホピ沢さんと行けたら楽しそう♪"、の返信に悩んでいた僕は、まだタケウチさんに返事をしていない。
僕の返事を待たずに次のメッセージを送ってくるとは、一体どうしたのだろう……?