「はい、ホピ沢ですけど……」
「え、やっぱホピ沢?うわー、すごい偶然。私、クドウだよ」
クドウ……誰だ?
「クドウだよ。え、全然私のこと、覚えてないの?」
クドウと名乗る女性は、馴れ馴れしく僕を呼び捨てし、肩を軽く突いてきた。その距離の近さに困惑しながら、僕は記憶の中を必死に探る。クドウ……僕が知っているクドウは、日本一有名な高校生探偵だけだ。
「えっと……」
「もうー、小学校で同じクラスだったクドウじゃん」
「……あ」
「思い出してくれた?そうだよ、クドウだよ。久しぶりだね、ホピ沢」
クドウ。同じ小学校でクラスメイトだったクドウさん。しばし考えた後やっと思い出した僕は、その瞬間すっと血の気が引いた。すごく嫌すぎる。今すぐここから逃げ出したい衝動に駆られた。
婚活バスという特殊な現場で、小学校のクラスメイトと偶然再会してしまったことも嫌で嫌で嫌悪感しかなかったが、それ以上に、"クドウさん"という人物に会ってしまったことが、本当に無理だった。
クドウさんは僕にとって……トラウマ的存在なのだ。
クドウさんは一見おとなしく、クラスでもあまり目立たない人物だった。休み時間は一人で本を読んでいることが多く、積極的に誰かと交流するタイプではなかったと思う。だから大部分のクラスメイトの彼女に対する記憶は、"クドウは静か"、だろう。
しかしそんなクドウさんは、何故か僕には攻撃的だった。なんの脈絡もなく突然、乱暴な口調で「あれやれ」「これやれ」と命令されたこともあったし、お前のものは俺もの的な態度で、僕のふでばこの中身やノート教科書類を勝手に使うこともあった。給食のプリンや果物を、許可なく食べられたことも何度もあった。
また何の因果か、何故かクドウさんとは、席替えをしても隣の席になることが多かった。それもあって、いつも何かしら無理な要求をされたり、乱暴な言葉でいじられていた。今思えば、いじめに近い気がする。
例えばこれはほぼ毎日だったのだが、授業中や帰りの会の時に「今から授業(もしくは帰りの会)が終わるまで、ホピ沢の腕を抓るから」と言われ、チャイムが鳴るまでずっと抓られていた。
「ホピ沢も私の腕を抓っていいから。どちらが強く抓られるか勝負しよう」と言われたが、意味もなく女の子の腕を抓ることはできない。僕は無抵抗のまま、クドウさんから抓られ続けていた。
時々カサイさんというクラスメイトも参戦してきたことがあり、二人から力一杯抓られた。まさに責め苦だった。抓られた僕の腕は赤くなり、腫れたこともあった。母には心配されたが、まさか女の子に抓られているとは言えず……という思い出がある。
僕にしてみれば、クドウさんはジャイアンだ。
「ホピ沢、婚活してんだ」
「まあ……クドウさんも?」
「親に言われて仕方なくね」
小学生だった頃のクドウさんは、ショートカットでボーイッシュで……といった感じだったが、目の前にいる40歳を過ぎたクドウさんも、変わらずにショートカットでボーイッシュ。まるでこれから登山にでも行くのかというような、アクティブな服装だった。とても彼女が真剣に婚活しているようには思えなかった。
この後僕は、クドウさんからの質問に耐えなければならなかった。
