「あの……さっきわんちゃんハウスで出禁を言い渡されてましたよね?」
次の座席に移動し名乗ろうとした瞬間、窓側に座る女性にそう切り出された。
「私の間違いではなければ、先ほどわんちゃんハウスで出禁を言い渡されていませんでしたか?あちらに座っている方も出禁になっていた気がするんですが」
そう言って女性は、少し離れた席のA山(肥満体型)をにちらりと目線を送る。そして僕に視線を戻して、再度「出禁になってましたよね?」と問うてきた。その口調は明らかに、不信感と嫌悪感でいっぱい。僕をじろりと睨みつける目も、軽蔑と敵意の眼差しだった。
おい、A山(肥満体型)!ただでさえお前の所為で出禁を言い渡されて最悪なのに、さらなる試練を押し付けんじゃねーよ!まさかここでも責められるなんて!マジでふざけんなよ!
「はい……」
僕だって出禁は不本意だ。しかし、自分自身が原因ではないと言い張りたかったが、出禁を言い渡されたことは事実。心では渋々……でも表面上では素直に認めた。ここで"俺は悪くないし"的な雰囲気を出してしまうと、僕は最低だろう。事の顛末を知らないこの女性にしてみれば、"犬に危害を加えたにもかかわらず一切反省もしないクズ男"になってしまう。
「私動物に優しくできない人は最低だと思います。そもそも犬が嫌いなのに、どうして参加したんですか?」
「……」
「ひどいと思います。この件はスタッフの方に報告させていただきます」
強い語気できっぱりと断言されて、何も言い返せなかった。その後は無言。5分間の自己紹介タイムが終わるまで、地獄の沈黙だった。女性の主張は最もだ。正論すぎて何も反論できない。だけど僕が犬に意地悪をしたわけじゃない。
僕は女性の静かな怒りにすっかり動揺してしまい、思考がまともでいられなくなってしまった。昔から誰かの怒りに直面すると、僕は混乱してしまうのだ。どっと汗が噴き出て、動悸が激しくなってしまった。
ちなみにこの女性は名乗らなかったし、自己紹介カードを交換しなかったので、どんな方なのかわからない。しかし動物愛だけはしっかりと伝わってきた。
